カーテンは黒に決めていた。見栄えが綺麗かなと思ったから。
 でもできれば薄くて、ちゃんと首に引っかかるものではないとだめ。
「……意外と高いんだ。カーテンって」
 インテリア用品の店に立ち寄り、好みのカーテンを物色したものの、すぐに買うには躊躇してしまう金額で断念した。
 特別高いってことでもないけど、バイトもしていなければ、おこずかいだってない今の自分には、たとえ三千円代だとしても、簡単に財布を取り出すことはむずかしい。
 どうせ死んだところでお金なんてなんの役にも立たなくなるのに。
 カーテンは、買えなかった。

「じゃあ、一回目の話し合いはじめまーす」
 一週間がこんなにも早く訪れるなんて。
嫌だ嫌だと思っていた月曜日は、呆気なくやってきてしまった。
 逃げ出したくなる気持ちをぐっと抑えて、喉がカラカラになりながら教壇に立つ。私とは違い、隣では緊張を感じさせない瀬名くんの姿。
「候補ある人、適当にどーぞ」
 ぷるぷると震える手に力をこめ、チョークを握る。進行係は必然的に瀬名くんになっていたので、記録係にまわる。
「メイド喫茶! これ一択!」「えー男子きもっ」「おい、きもってやめろよ」「お化け屋敷とかでよくね?」「オーソドックスなのってありなんだっけ?」「いいんじゃん? 別に?」「でも却下されるんじゃなかったっけ?」「えーでも、やりたかったらいいんでしょ?」
 様々な意見が、十人十色としてあがってくるが、どれもこの場限りのもの。適当、その言葉がまさしく当てはまる。決まればなんでもいい、そんなのが空気感として伝わってくる。
「おーい、理由がちゃんとしてないと通らないからなー」
 担任が見かねて教室隅から一言。その声に一度はしーんと静まり返るものの、
「でもさ、ぶっちゃっけなんでもよくね?」
 真剣に意見を述べているのは、一体何人いるんだろうか。そもそも真剣に文化祭に取り組んでいる生徒はいるんだろうか。
 ばらばらで、何の深みもないアイデアに黒板は未だまっさら。
 ちらり、と瀬名くんの様子を後ろから伺えば、特に表情を変えることなく黙っていた。
「ねぇ、メイド喫茶にしようって。なっ、綿世さんもそれでいいっしょ?」
「えっ」
 飛び交っていた矢が突然自分に降り注ぐ。耐えきれない視線と一緒に添えられるように。
「……っと」
 声が、出ない。
こんなとき、話を振らないでほしい。何の決定権も持たない私に、名ばかりの委員ってだけの私に。