私は先生の意味深な発言に、ぎこちなく頷くしかなかった。



 放課後、隣のクラスが体育館を貸し切って巨大な迷路をするとの情報が入った。視聴覚室では「体育館使っていいの?」「教室だけかと思った」などといった意見があがっており、そんな私も教室に囚われていたうちの一人だった。
 その他のクラスも、出し物が決まっていなくとも候補はいくつかあがってきているらしい。それに比べてうちのクラスは何一つだって決まっていない。協調性がないんだろうか。まとまりは確かにないと思うけれど。
「ねぇ、瀬名くん」
 未だ白紙のプリントを前に、スマホを触る彼に声をかければ「んー」と画面からそらすことなく反応が返ってきた。
「あの、どうしたらいいのかな」
「なにが?」
「えっ、あの……出し物、決まってないから」
 真っ白な用紙にちらちらと視線を送りながら、この先の不安をぶつける。
 二回の話し合いで、周りはどんどん先に進んでいる。楽しそうに、悩みなんて何もないような顔で、和気藹々と委員同士で談笑してる。
 候補すらあがってないのは私達のクラスだけなのかもしれない。そう思うと漠然とした焦りが沸き起こって、でも、その焦りの解決方法が分からないからどうも出来ない。
「別にいいんじゃない?」
「え……」
「変に焦ったって、あんな状態じゃ決まらないと思うし」
〝あんな状態〟
 他人事のような顔をしたクラスメイト達は、まるで責任のなすりつけ合いをしているみたいだった。
 適当に、さっさと、そう言うわりには打開策を何もあげてはこない。
 それがあのクラスの今の空気。誰かが何とかしてくれる。その空気を壊さないように、ただ時間が過ぎていくのを待つだけの、途方もない無駄な時間。
 そうわかっていながら、私だって同じだ。
 発言することを恐れ、自分に非難が集中するのを避け、じっと誰かが変えてくれる未来を待っている。
「……このまま決まらなかったら」
「ああ、それもそれで面白いかもね」