「……私は、一番適任ではない、と思います」
 人前に立つ事が苦手で、人と関わることを避け、一人で過ごしてきた私には、一番向いていないと思っていた。
 けれど実際は委員に選ばれてしまって、毎週月曜日は黒板の前に立たなければいけなくなってしまった。望んでいない展開になってしまった。
「そんなことはない」
 私の弱気な発言を、先生はやさしく吹き飛ばす。
「向いてるよ。だから頼んだんだから」
「……そうでしょうか」
「ああ、この偉大なる山川先生が言うんだから間違いない」
 根拠のない自信の付け方はとても先生らしいとは思えないけれど、ぱっと不安を飛ばすような風をおこしてくれるのは先生の力なんだと思う。
 先生には私と同じような悩みを抱えた過去はあるのだろうか。人が怖いと思うようなことが一度だってあったんだろうか。
 いつだって元気そうで、学生の時から変わらないような性格はきっと持って生まれたものなんだと思う。
 人を明るくさせるような人柄を私は羨ましいと妬むことしか出来ない。
 そんな先生があえて私に任せたいと言った。人が怖いと思ってる私に任せたいと。
「どうして、私を選んだんですか?」
 その質問に先生は少しだけ目を丸くさせ、そしてまたふわっとやさしく微笑んだ。
「そうだなぁ」
 流れるように、視線が壁に貼られた用紙へと向けられる。
「俺が思うに、この感想文の二人は似た者同士なんだよ」
「似た者同士?」
「ここじゃない、どこかに居場所を見つけようと必死だ。息苦しさを感じてる。そう思うだろ、綿世も」
 突然投げかけられ、なんと答えたらいいのかわからなかった。
 私を選んだ理由の答えなのだろうかと考えるが、先生の言葉を噛み砕いても、答えなのかは不明だった。
 けれど、読書感想文を書いている人間が居場所を見つけようとしているという言葉は納得出来た。どちらも、ここではないどこかを見つけ出そうと本の世界を旅しているのだろう。