「良かったのかよあんなこと言っちゃって」
「あー...。やっぱまずったかな」
長袖のワイシャツを肘の下までまくりその両腕をポケットに突っ込みながら田中が苦笑する。
「僕はかっこいいと思ったしありがたいとも思った。でも僕のせいで田中が目をつけられるのは嫌だね」
「お前俺の事大好きだな」
「...」
「なんか言えよ」
そう言って脇腹をチョップされる。
他愛もない時間だった。
この学校ではそういう時間がとても大切だ。

階段を降りた先、何か人だまりが出来ていた。

「圏外群の癖に私より上にいるのが許せないのよ!!」
モスキート音にもにたキャンキャンした甲高い声を上げて声の主はその''私より上''にいる人に履いていたスリッパをぶん投げた。
「うわ〜るあさん、ご立腹じゃん」
そう、声の主はあの才色兼備るあさん。
スリッパを投げられているのはこれまた才色兼備な白井だった。
るあさんのポイントは97。
97の周りを94、91、90、92が囲う。
この学校の四天王。
るあさんを取り巻く、るあさんの使い。
るあさんの為に生き、るあさんの為に死ぬ。
その四天王達も声を荒らげていた。
「るあさんの上に立つなんて」
「るあさんを侮辱している」
「このお方は完璧なのだ」
「るあさんは選ばれしお方なのだ」
そういう系の漫画の読みすぎなのではないかと言わんばかりの決まり文句。
カオスを極めるこの修羅場。
傍観者が傍観者を呼び、当たりは大変なことになっていた。
るあさんは怒っていた。
なんでこんなに怒っているのかと言うと庶民でも考えつける理由が3つ。
1･白井のくせに自分より上にいることが許せないから。
2･白井のくせに存在していることがウザイから。

3･白井のくせに自分の双子の姉である事を皆が知っているから。

そう、白井とるあさんは双子だった。
数分白井の方がお姉さん。
成績表には毎度、1位と2位に白井が並ぶ。
それがるあさんには苦痛なのだ。
私の方が完璧なのに。私の方がポイントが高いのに。私の方が下にいる。
意味がわからない状況に、この間違っている状況にるあさんは怒っているのだ。