〜第2話〜
「凪、どうだった?」
「ん?俺65〜」
「おっ上がってんじゃん。後で更新しに行こ」
「田中も上がった?」
「俺72〜」
なんと、田中が2軍群に昇格していた。
ちなみに一軍群は90からである。
「安心しろ凪、俺はずっとお前と友達だよ」
そう言って哀れそうな目で肩をポンポンと叩いてくるからデコピンをお見舞いしてやった。
その時僕と田中の学生証が同時に音を鳴らした。
多分成績表が配布された通知だろう。
2人とも下敷きのような厚さの電子学生証を取り出し通知をタップする。
昔はただのプラスチック版みたいなやつだったらしいけど今は透明のアクリル板のような物に僕らの個人情報やらなんやらがデータとして入っている、パネル型の学生証だ。
「また白井が1位じゃん」
『テスト総合点数第1位:白井桜来』
「2位はやっぱりるあさんか」
''るあさん''とはこの学校の超逸材、
才色兼備、This is完璧。
でもそのるあさんが唯一勝てない相手が白井だった。
白井にとって1位を取るのはこの不条理に対する俺らへの仕返しだろう。
勉強しなくても私はあなた達とは違うのよと。
ポイントが低くても私はあなた達とは違うのよと。
無言の抵抗。
それでもポイントが変わらない白井は''1位''という一際目立つ結果に皆の目を光らせていた。
白井は今日も黙ってただ座るだけ。
どうせだれも褒めてくれることはない。
待ってるのは「調子に乗るな」「圏外群の癖に」「圏外群は何してもかわんねーよ」という罵声と煽り。
白井が何を考えているのか、僕は気になって仕方なかった。
それでも白井に声をかけないのは圏外群のその中でも底辺位置にいる白井と関わるとどうせろくなことがないからだ。僕まで毎日虐められるのはゴメンだ。
ポイントにも響くかもしれない。
それもゴメンだ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
誰かが教室から勢いよく逃げ出して行った。
「え?なに?」
「だれ?」
「怖い怖い」
教室は一瞬混乱して、
すぐに納得した。

「落ちたか」

田中が頬杖を着いてもう見えないあいつの影を見送って言った。
多分あいつは今順位が大幅に下がったことによるポイント下落。もしかしたら群も落ちたのかもしれない。
可哀想に。
圏外群へ入ってしまったのならあいつに未来はないだろう。

「おい松井、昼飯買ってこいよ」
急に名前を呼ばれ田中と同時に声の方に顔を向ける。
同じクラスの73に僕は昼ご飯を買ってくるように命令された。
65の僕は73のそいつに逆らえない。
もちろんお金なんて貰えない。
僕の実費で、僕のお金で73にお昼ご飯を買うはめに今なった。
「分かったよ」
揉め事を起こすのは妥当じゃない。
よって素直に財布を取りだし購買に行くのがこの場合の正解である。
「じゃあ72の俺も行きまーす」
田中も席を立ってくれた。
「おい田中、いつまでも65となんかつるんでんなよ。お前はこっち側の人間だ」
''こっちの人間''とは人を見下せる特権を手にした者。
こいつも80のやつに昼ご飯を買ってこいと言われたら黙って買いに行くだろう。
でも僕より遥かに見下せる相手が多い。それは田中も同じだった。
本当なら僕は田中に命令され、それをこなす奴隷と支配人のような関係。
それでも田中がそうしないのは
「生憎俺は人を足蹴りにして満足感を得るほど落ちぶれちゃいないんでね」
73にだけ聞こえるように耳打ちするように
でも力強い声で言った。
同じ2軍群であればポイントの1つ違いくらいで噛み付いてきたりしない。
73は舌打ちを1つして「早く行け」と僕の背中をドンと押した。