「おはよ」
「おはよ(なぎ)
「あれ、お前62だったっけ」
「春休み中に髪整えたんだよ。あと英検取った」
英検取ったという僕のセリフにポイント69の田中の顔がボーリングの球みたいな、いわゆる丸3つの顔になった。
「え、まじ?何級?」
まぁその質問が妥当だろう。
僕はちょっと誇らしげにピースサインを送ってやる。
「まじか〜俺も取らなきゃな〜。お前抜けがけじゃん」
「抜けがけは聞き捨てならないな。テストのたんびにやらかしたとか言っといていつも平均プラス20くらい取ってるお前には言われたくない」
それを聞いてへっと笑う田中は頭が良かった。
そんなに勉強しなくてもそこそこの点数取れるタイプ。
でも69という微妙な数字の理由は、
「げっ明日1限家庭科?」
「うん、2年になって初の授業が家庭科とかお前の為に組まれた様なものだよなぁ」
わざと煽るようにいってやる。
田中は裁縫、調理などなど
家庭科の実技がびっくりするほど出来ない。
不器用さん、というやつだ。
玉ねぎのみじん切りは危なっかしくて見れたもんじゃないし、田中の作った卵焼きはガリガリ言うし、ズボンをミシンで縫えば履く所も足を通すところもない有様だ。
家庭科さえ出来れば多分こいつは2軍群は容易いだろう。

そんなどこの高校にもありそうな会話をしていた。
その時だった。
クラスが急にワッと盛り上がり高らかな笑い声と何かが床に叩きつけられる音がした。
「うわ、今年あいつと同じクラスかよ...」
田中が僕の心の声を代弁する。
最悪だ。
クラスの笑い声はある1点に集中していた。
その中心には、
「白井 桜来(さら)...」
床に叩きつけられ皆に指を刺され笑いものにされてる彼女の名前は白井桜来と言う。
容姿端麗、勉強、スポーツ申し分なく完璧。
家庭科をやらせれば目にも止まらぬ早さで全てをこなす。
歌を歌わせれば透き通った天然水の様な完璧な歌声。
そんな彼女の頭上の数字は
「14」
この学校で1番低い数字。
14なんて逆に取るのが難しいくらいだ。
どんなに容姿が悪くてもどんだけテストの点数が悪くてもだいたい20点台が相場だ。
皆それなりに努力はするから。
でも彼女は違った。
本来なら人を見下せるべき人のはずなのに。
1軍群にいても差し支えない。
この学校のトップに君臨する才能を持ち合わせているにも関わらず、
頭の上の数字だけで支配されたこの学校では
彼女は圏外群のそれとなにも変わらなかった。
誰もこのおかしい事態に疑問を抱かない。
この明らかに間違っている現状に誰も何も思わない。
白井桜来は毎日、毎日、その不条理な制裁を黙って食らっていた。