〜第10話〜
音が、消えた。
最初は「何を言い出したんだ」とか「意味がわからない」とか「あの生徒を止めなさい」とか場が混乱に満ちていたのに。
白井の言葉が進むたび、自分達が犯してきた、犯されてきた罪と今まで隠れていた現実が突きつけられて、皆が口をつむぎ、白井の言葉に真剣になっていた。
今までポイントを上げるために生き、
ポイントだけで世界を決めて、
ポイントにすがって過ごしてきた僕達の生活は大人達によって仕組まれたものだった。
そして白井の
「今しかない高校3年間」
その言葉に顔を引っぱたかれたような衝撃があった。
それを感じたのは僕だけではない事が会場の空気感からひしひしと伝わってくる。
僕達の今は今しかない。
これを逃せば一生、戻ってくることは無い今。
その貴重な今をこんな数字に乗っ取られていいのか。
言い訳がないだろ。
田中がそうしてくれたように僕も、不条理な強い存在に怯える人を助けて、そうやってみんなで助け合ってしんどい事も楽しい事も思い出として残していかなきゃいけないだろ。
だって、「今」は「今」しかないんだから。
言葉は時として人を傷つける。
そんな威力を隠し持っている。
それは逆も然りだ。
言葉は時として人を目覚めさす強力な力を持っている。
白井が言っていた。「私は人は殺さない」とはこういうことだったんだ。
暴力で支配されたこの学校を言葉で変えようとしていたんだ。
僕も、変わりたい。
僕も、変えたい。
そう思ったら早くて、僕は勢いよく立ち上がり白井に向かって拍手を送っていた。
白井の放った言葉たち一つ一つに称賛と決意を乗せて。
気がつけば田中も同じことをしていて、僕達から始まった拍手は1人、また1人と人数を増やし、
会場は拍手の渦へと変わっていった。
白井はその場でへたれこむるあさんを無言で抱きしめた。

僕らは変わっていくんだ。
今の白井の言葉をよしとしない人も沢山いるだろう。
皆がそうやって前向きにひとつの事に向かって進んでいくのは難しい。
でも、最後は全員で良かったね、楽しかったねと言えるように、少しずつ、成長していくんだ。

今日はそんな僕らの成長の第1歩を大きく踏んだ。そんな瞬間だった。