「ただいま〜」
「お邪魔します…」
「あれ?さっき出かけなかった??あ、凪君!!久しぶり〜。あらっどうしたの!ずぶ濡れじゃない!!今タオル持ってくるからね。ちょっと待っててね!」
相変わらず田中のお母さんは忙しい。
たまにおちゃめな所もある可愛らしいお母さんだ。
持ってきてもらったフワフワのタオルに顔を埋めて、田中が持ってきてくれた服を着て上がらせてもらった。

「急に''会える?''とか。どうした?」
いきなり振られた本題にちょっと緊張する。
田中も平然を装ってくれてはいるけど緊張してるみたい。
「あ、うん。えっと…」
ちゃんと言わなきゃ。
言わなきゃ伝わらない。
拳にグッと力を込めて勇気を振り絞った。
「田中に酷いこと言った。ほんとにごめん」
でも田中はポカン顔。
目をぱちくりさせて頭の上に「?」を沢山浮かばさているのが見えた。
「え?」
「え?」
「ん?」
「ん?」
冷や汗がでる。え、何この時間。
どういう反応?
「えーっと…」
「謝るのは俺の方だろ」
謝るのは田中の方?どういう事だ?
「無責任な事言ったし、いじめられるお前を見て見ぬふりした。そんな俺に怒ってもう連絡しても返信来ないと思ってたから。お前から連絡来た時、めっちゃ嬉しかった」
頬をポリポリかきながらちょっと恥ずかしそうにそう言う。
「ごめんな。凪。俺はお前が生きててくれて良かった」
''あんたなんて産まなきゃ良かった''
母さんの言葉が頭をよぎる。
僕が生きてて良かったと思ってくれる人なんていないと思ってたんだ。
人として見てもらうなんて以ての(ほか)
毎日毎日降ってくる言葉は僕の存在を否定する言葉ばかりで。
ものを殴るように振り上げられる拳もバットも降ってくる石も全部僕という存在を否定するものばかりで。
あんなに酷いこと言ったのに。
田中は僕が存在する事を許してくれるの?
「おいおい泣くなよ〜。どうした?」
気づいたらボロボロ涙を流して泣いていた。
声にならない感情のボトルが1度蓋を開けるとドバドバと溢れて止まらない。
僕が泣くから背中をドンドン叩いてくる田中もちょっと涙ぐんでいた。
それをお互い茶化しあって笑った。
久々に心から楽しいと思って笑えた。
それからたくさんの話をした。
白井の事、僕と疎遠になってからの田中の日常、最近ハマってるアニメの話、
田中はこの空気が壊れないように今日なんであんなふうになってしまっていたのかを聞いた。話終えると「今日は泊まってけ」と言ってくれた。

▶仲直り、できたよ
白井は田中と僕とのことを気にかけてくれているようだったから軽く連絡を入れておく。
もうすぐ新学期が始まるけど、不安で仕方ない僕に田中という力強い味方がついてくれた。
何とか頑張って白井の計画実行まで耐えぬこう。そう心から決めた。