倉庫の扉を開いて外に出る。
錆びていたのでガンガン音がうるさくて誰か来るんじゃないないとちょっと怖かったけど白井はそんなのお構い無しに伸びを1つ。
スマホのライト機能を頼りに夜の校内を散策する。
「ねぇ、あてはあるの?」
「ない」
「誰かのを盗むの?」
「そうなんじゃないない?知らない」
「白井の服だろ」
「別に手伝ってくれなんて言ってないけど」
冷たい。全てにおいて冷たい。
心が折れそうだ。
確かに頼まれてない。
でも僕だって帰りたい家は、無い。
無言の廊下に足音だけが響く。学校の床のリノリウムはそんな僕らの空気感まで表すようにひんやりとした寂しい音を立てた。
「あ、これは?」
技術室に置いてある作業着を指さす。
週に1回、1年生がやる授業だ。
作業着は着回しでその週着た人が次週の人の為に洗濯して持ってくる。
それを忘れればその週の人に迷惑がかかってしまうし第1荷物が増えて大変だから持って帰るのが凄い嫌だったのを覚えてる。
白井もこれでいっかという感じだったので職員室から鍵を取ってくるよとだけ言って白井を残して階段を降りた。
職員室は先生達だけが知っている暗証番号があれば開くのだが僕は奇跡的にその暗証番号を知っている。
1年生の時、放課後に忘れ物をして先生に鍵をもらおうと職員室に行ったらほかの先生が打ち込んでいるのを見てそれを覚えていた。
セキュリティがかかっててサイレンが鳴ったらどうしようとか考えていたけど意外と学校のセキュリティはガバガバでスルッと鍵を取る事が出来た。
階段を駆け上がって白井の元へ向かう。
「しら、」
名前を呼ぼうとして立ち止まった。
白井はドアに寄りかかって足を抱え込むようにして座り、自分の腕を見つめていた。
虚ろな目で。
どこか悲しそうな目で。
そして小さくため息を1つ。
白井は自殺しようとした事があるのだろう。
あるから僕にあんな事させたし
あるから「人は手強い」なんて言ってきたのだろう。
自分で実践して、今の僕みたいに失敗したんだと思う。
「ねぇ、白井」
今僕が来たのに気づいたみたいだ。白井は少しビクッとしてこちらを見上げてきた。
「鍵」
でも直ぐに冷静さを取り戻しさっきまで見つめていた腕とは反対の腕で鍵をよこせと差し出してきた。
「ん」
白井は鍵を受け取りズカズカと教室に入って1番手前にかけてあった作業着に袖を通した。
ありがとうの1つや2つあってもいいんじゃないかと思ったけどまぁもうどうでもいい。
そんなことより聞きたいことがあったから。
「白井はずっとこのままでいいの?」
「このままって?」
「ポイント。白井はずっと14のままでいいの?」
「いいわけないでしょ」
「でも、じゃあどうするんだよ」
「いつか必ず来る、チャンスを待ってる」
「チャンス?」
「そう。チャンス」
「なんでそんなものが来るって言いきれるんだよ」
「私は全てを知っているから」
なんだそれ。過剰な自信。
虐められすぎて頭おかしくなったんじゃないか?とも思った。
でも白井の顔はデタラメを言っているようには見えなくて、確かな確信がある。そんな表情だった。
「じゃあその全てとやらを教えてくれよ」
「無理」
「なんで」
「私の計画が崩れるじゃない」
「計画?」
「復讐計画」
「復讐計画?」
急な話に思わずリフレインで返してしまう。
「そう。るあにも私を虐めるアイツらにもそれをほっておく先生達にも。皆に必ず復讐してやる」
顔に覇気は無いのに目がぎらついていた。
人でも殺しそうな勢いで怖かった。
白井に人殺しにはなって欲しくなかった。
あんなに辛い思いを毎日耐え抜いているのに結局殺人犯としてあいつらより悪者になったら元も子もないじゃないか。
「人は、殺すなよ」
「なんで?」
「人を殺したら白井の方が悪者になるだろ」
「100日のいじめと1日の殺し、殺しの方が罪が大きいなんておかしくない?それに100日のいじめを耐え抜いて耐え抜いて我慢の末に殺したのにいじめてたその人たちは何も無かったかのように被害者になるの、おかしいでしょ」
「そんなの、法律で決まってるんだからしょうがないよ」
「それ。その考え方が嫌なの。法律できまってるからっておかしな事をおかしなまま目をつぶるでしょ。それが不愉快」
白井のむちゃくちゃな口撃に何も言えないでいるとそのまま続けられた。
「私は、殺してスッキリする復讐なら別にしてもいいと思ってる。その人がそれで満足するならいいと思う。だって私が死ぬしかないと思ったようにその人もきっと殺すしかないと思ったんだから」
あぁ、やっぱり。白井は自ら命を絶とうとしていたんだ。
いつもあんなに飄々としていて、言葉は全て鋭くて、強い人のように思うけど実は僕らと何も変わらない普通の女の子なんだ。
だから白井には普通の女の子として普通の幸せを感じて欲しい。
「僕は、白井に人殺しになって欲しくないよ」
白井の目がゆっくり開いていく。
僕の発言に驚きを隠せていなかった。
直ぐに視線を僕から外して瞬きを3回。
何か言葉を飲み込んだ。
「私は一言も人を殺すなんて言ってないけど」
あ、そっか。
僕の勝手な思い上がりか。
白井は確かにそんな事一言も言ってなかった。
ちょっと嬉しくて「そっか…」と呟きながら頬が緩むのを感じた。
「なに、ニヤニヤしてんのよ」
「いや、白井が人殺しにならなくて良かったなって思って」
「なにそれ、気持ち悪」
そういう白井だけど1呼吸おいて
「計画、あなたになら教えてあげてもいいけど」
そうボソッと呟いた。
「え?ほんと?いいの?」
「今みたいに勝手な解釈で計画が邪魔されるのが嫌なだけ。殺すのはいいとは思うけど私はしない。あいつらのために自分の人生全て捨てるのはごめんよ。そこまでの価値が相手にあるならすればいい」
そう言って白井は計画の1部を僕に語ってくれた。
錆びていたのでガンガン音がうるさくて誰か来るんじゃないないとちょっと怖かったけど白井はそんなのお構い無しに伸びを1つ。
スマホのライト機能を頼りに夜の校内を散策する。
「ねぇ、あてはあるの?」
「ない」
「誰かのを盗むの?」
「そうなんじゃないない?知らない」
「白井の服だろ」
「別に手伝ってくれなんて言ってないけど」
冷たい。全てにおいて冷たい。
心が折れそうだ。
確かに頼まれてない。
でも僕だって帰りたい家は、無い。
無言の廊下に足音だけが響く。学校の床のリノリウムはそんな僕らの空気感まで表すようにひんやりとした寂しい音を立てた。
「あ、これは?」
技術室に置いてある作業着を指さす。
週に1回、1年生がやる授業だ。
作業着は着回しでその週着た人が次週の人の為に洗濯して持ってくる。
それを忘れればその週の人に迷惑がかかってしまうし第1荷物が増えて大変だから持って帰るのが凄い嫌だったのを覚えてる。
白井もこれでいっかという感じだったので職員室から鍵を取ってくるよとだけ言って白井を残して階段を降りた。
職員室は先生達だけが知っている暗証番号があれば開くのだが僕は奇跡的にその暗証番号を知っている。
1年生の時、放課後に忘れ物をして先生に鍵をもらおうと職員室に行ったらほかの先生が打ち込んでいるのを見てそれを覚えていた。
セキュリティがかかっててサイレンが鳴ったらどうしようとか考えていたけど意外と学校のセキュリティはガバガバでスルッと鍵を取る事が出来た。
階段を駆け上がって白井の元へ向かう。
「しら、」
名前を呼ぼうとして立ち止まった。
白井はドアに寄りかかって足を抱え込むようにして座り、自分の腕を見つめていた。
虚ろな目で。
どこか悲しそうな目で。
そして小さくため息を1つ。
白井は自殺しようとした事があるのだろう。
あるから僕にあんな事させたし
あるから「人は手強い」なんて言ってきたのだろう。
自分で実践して、今の僕みたいに失敗したんだと思う。
「ねぇ、白井」
今僕が来たのに気づいたみたいだ。白井は少しビクッとしてこちらを見上げてきた。
「鍵」
でも直ぐに冷静さを取り戻しさっきまで見つめていた腕とは反対の腕で鍵をよこせと差し出してきた。
「ん」
白井は鍵を受け取りズカズカと教室に入って1番手前にかけてあった作業着に袖を通した。
ありがとうの1つや2つあってもいいんじゃないかと思ったけどまぁもうどうでもいい。
そんなことより聞きたいことがあったから。
「白井はずっとこのままでいいの?」
「このままって?」
「ポイント。白井はずっと14のままでいいの?」
「いいわけないでしょ」
「でも、じゃあどうするんだよ」
「いつか必ず来る、チャンスを待ってる」
「チャンス?」
「そう。チャンス」
「なんでそんなものが来るって言いきれるんだよ」
「私は全てを知っているから」
なんだそれ。過剰な自信。
虐められすぎて頭おかしくなったんじゃないか?とも思った。
でも白井の顔はデタラメを言っているようには見えなくて、確かな確信がある。そんな表情だった。
「じゃあその全てとやらを教えてくれよ」
「無理」
「なんで」
「私の計画が崩れるじゃない」
「計画?」
「復讐計画」
「復讐計画?」
急な話に思わずリフレインで返してしまう。
「そう。るあにも私を虐めるアイツらにもそれをほっておく先生達にも。皆に必ず復讐してやる」
顔に覇気は無いのに目がぎらついていた。
人でも殺しそうな勢いで怖かった。
白井に人殺しにはなって欲しくなかった。
あんなに辛い思いを毎日耐え抜いているのに結局殺人犯としてあいつらより悪者になったら元も子もないじゃないか。
「人は、殺すなよ」
「なんで?」
「人を殺したら白井の方が悪者になるだろ」
「100日のいじめと1日の殺し、殺しの方が罪が大きいなんておかしくない?それに100日のいじめを耐え抜いて耐え抜いて我慢の末に殺したのにいじめてたその人たちは何も無かったかのように被害者になるの、おかしいでしょ」
「そんなの、法律で決まってるんだからしょうがないよ」
「それ。その考え方が嫌なの。法律できまってるからっておかしな事をおかしなまま目をつぶるでしょ。それが不愉快」
白井のむちゃくちゃな口撃に何も言えないでいるとそのまま続けられた。
「私は、殺してスッキリする復讐なら別にしてもいいと思ってる。その人がそれで満足するならいいと思う。だって私が死ぬしかないと思ったようにその人もきっと殺すしかないと思ったんだから」
あぁ、やっぱり。白井は自ら命を絶とうとしていたんだ。
いつもあんなに飄々としていて、言葉は全て鋭くて、強い人のように思うけど実は僕らと何も変わらない普通の女の子なんだ。
だから白井には普通の女の子として普通の幸せを感じて欲しい。
「僕は、白井に人殺しになって欲しくないよ」
白井の目がゆっくり開いていく。
僕の発言に驚きを隠せていなかった。
直ぐに視線を僕から外して瞬きを3回。
何か言葉を飲み込んだ。
「私は一言も人を殺すなんて言ってないけど」
あ、そっか。
僕の勝手な思い上がりか。
白井は確かにそんな事一言も言ってなかった。
ちょっと嬉しくて「そっか…」と呟きながら頬が緩むのを感じた。
「なに、ニヤニヤしてんのよ」
「いや、白井が人殺しにならなくて良かったなって思って」
「なにそれ、気持ち悪」
そういう白井だけど1呼吸おいて
「計画、あなたになら教えてあげてもいいけど」
そうボソッと呟いた。
「え?ほんと?いいの?」
「今みたいに勝手な解釈で計画が邪魔されるのが嫌なだけ。殺すのはいいとは思うけど私はしない。あいつらのために自分の人生全て捨てるのはごめんよ。そこまでの価値が相手にあるならすればいい」
そう言って白井は計画の1部を僕に語ってくれた。