「…この世界は間違ってるよ」
ボソッと無意識に口から零れた。
ポトッと僕の言葉が落ちる音がした気がした。
その時、視界の端にいる白井がピクっと動いた。
「なんで?」
そう投げかけられる言葉はやはり真っ直ぐ僕を突く。
「学力と容姿と運動神経だけが良くったって人を殴って蹴散らして見下すような奴らが社会に出たら日本は終わりだよ。先生達だって病院に搬送でようやく生徒指導だ。隣を素通りして行く先生達が恐ろしかった。僕はらもっと共に生きる力を身につけなければならないんだよ。そうじゃなきゃ戦争なんて容易く始まってしまう。それを良しとしてる学校も政府も親もそこに疑問を抱かずに通う僕らも間違ってるんだ」
それを当事者になってようやく分かった。
「それに」
まだ続ける。
「白井がポイント14で圏外群にいるのもおかしい。多分皆は白井に嫉妬してるんだ。なんでも出来る白井に嫉妬してポイントが低い事を都合よく受け取って言い訳にしてるんだ。だれも''あなたは才能があるのにポイントが低いなんておかしいね''と言わない事がおかしい」
そこまで喋ってようやく息を吸い、白井の方をチラッと見る。
バチッと目が合って離せない。
白井は僕の言葉に何も言ってくれないのだろうか。
白井って目の下に涙ボクロあったんだ。
「私、帰る」
「え?」
「帰る」
「ま、待ってよ。そんな急に」
「今何時か分かってる?もう0時。家族も寝ただろうしどうせ家の鍵はかかってるからそこらほっつき歩くだけだけどあなたとここで2人なんて無理」
「0時にその格好で外出歩く方がまずいと思うけど…」
白井はハッとして自分の今の姿を確認し、
明らかに赤面して
「あんたが服貸してくれないからでしょ!ほんと嫌い」
と言ってくるからいやいやいやちょっと待てと思った。
とんだ八つ当たりだ。
僕だって一瞬服を貸すか迷ったけど着てるのはこのカッターシャツ1枚だ。
それにこんな血まみれ土まみれの服、貸される方が嫌だろうよ。
…。
「学校からなんかかっさらう?」
人を殴り飛ばしても何も無い高校だ。盗みなんてしたところで別に見つからないしそれによってポイントが下落することも無い。
僕はこの期に及んでもポイントの事を気にしているのか。この1年半で身についてしまった、嫌な習慣だ。