「鈴城……?」
私は思わずつぶやいた。バスケ部部長と同じ名字だ。珍しい名字だし、顔や雰囲気は似ていないが、無関係とは思えない。
「単刀直入にお聞きしますが、あの鈴城先輩とは何か関係が?」
「あの鈴城先輩……ね」
彼は複雑そうな表情で微笑した。遅ればせながら、自分の失言を悟る。
「すみません。失礼な言い方をしてしまいました」
「いや、いいんだ。たぶんみんなそう思ってるだろうしね」
彼は自嘲じみた言い方をして、続けた。
「俺とあいつは双子だよ。数分の差で俺が兄だけど。二卵性だから似てないんだ」
(……双子、ですって?)
私は眉をひそめる。
鈴城先輩が双子だなんて話、聞いたことがない。バスケ部は私の担当ではなかったから今回特別に調べたりはしていないが、あれほど有名な人に兄弟がいたら、さすがに私も知っているだろう。
「信じられないって顔してるね。俺、目立たないからさ」
「目立たない……なんてことは、ないと思いますが」
鈴城亜樹先輩を、正面から観察する。
バスケ部部長の葉琉先輩と違い、顔のつくりはどちらかといえば女性的だし、精悍というよりは文学青年っぽい外見をしている。共通点があるとしたら背の高さくらいか。
だが、目立たないという評価には疑問を抱く。
月並みな例えだが、葉琉先輩が太陽だとすれば、亜樹先輩は月といった印象だ。たしかにパッと目を惹くタイプではないが、姿勢が良く無駄のない身のこなしに、すでに何人かが振り返っている。
そう言うと、亜樹先輩は頬を赤らめた。
「え、あ、ほんと……? そう言ってもらえると嬉しいけど……」
「鈴城先輩……いえ、葉琉先輩とはあまり一緒にいらっしゃらないんですか?」
「あー……、まあ、あいつとは、部活もクラスも違うしね。でも、文化祭とか、一緒にまわったりもしたよ」
「……そうですか」
あまりに似ていないため正体を疑ってしまったが、腕章と資料を持っているのだし、会長から打診があったことに間違いはないだろう。そこさえわかれば、この際彼がどこの誰だろうと構わない。
私はシワのついたプリントを伸ばして、地図の右脇に書かれた注意事項を確認した。
「毎日場所が変わるんですか。今日は……この雑貨屋の前で三十分」
亜樹先輩も隣からのぞき込み、口元に手を当てる。
「ところで、不思議だったんだけど、同じ場所に立ってるだけでいいの? 巡回って普通、歩きまわったりするよね。まあ、この辺あんまり知らないから、俺にとってはその方がありがたいけど」
「……おそらくここが、ホットスポットということでしょう」
首をかしげた彼にわかるよう、私は説明する。
「ホットスポットとは、犯罪多発地点のことです。手当たり次第にうろつきまわるより、そういった場所に一定時間とどまる方が、防犯効果が高いと言われています。犯罪を計画している者が、その内容がばれていると勘違いするせいではないかということのようですね」
「へえ……、そうなんだ」
心底感心したように亜樹先輩が息をついた。
「すごいね、三澄さん。そんなこと知ってるんだ」
「ちゃんとした説明は受けていないので憶測ですが。三十分は、少し長いような気もしますし。先輩は、この件について何か聞かされていないんですか?」
「え? ……うん」
「何もですか? 会長から頼まれたんですよね?」
「そ、そうなんだけど……」
責めたわけではないのだが、彼が傷ついたように眉を下げた。まさか、本当に何の説明も受けていないのか。
さすがに彼に同情する。三年生は、部活動によっては、引退して受験に専念する頃だというのに。
もしかして、会長に弱みでも握られて、無理強いさせられているのだろうか。
見回りついでに、彼の様子を観察する。
不審な動きをしている者なんてそう簡単に見つかるわけがない。周囲の人たちを眺めているだけの時間に、先輩は次第に飽きが来たようだ。
彼のそわそわした雰囲気を感じ取った私は、鞄の中からバインダーに挟んだ書類を取りだして彼に見せた。
「もしよろしければ、こちらに署名していただけませんか?」
「え? なに、これ?」
彼は表題の「現・生徒会長一城兼人のリコール請求」という文字を見て、顔を引きつらせた。
「署名を集めています。全校生徒の三分の一以上の署名を集めれば、選挙管理委員会に会長の解職請求をすることができます」
「ご……ごめん。遠慮しときます……」
彼はまだわずかしか集まっていない署名のプリントをすぐに返してきた。
数少ない署名のほとんどが男子生徒のもの。生徒会長の人気をひがんでいたり、嫉んでいたりする生徒ばかりだ。しかも、しばらく前からその数は全く増えていない。
「一応これでも、あいつとは幼なじみなんだ。申し訳ないけど、顔をつぶすようなことはできないよ」
「そうですか。そういうことなら、仕方ありません」
私は即座に鞄にしまう。
署名については特に残念ではない。今焦らなくても、今週末には、十分な数が集まる予定なのだ。
しかし、少し意外だった。会長に無理にかり出されたのならば不満もあるだろうと思ったのだが、そうではないらしい。
だとすると、幼なじみのよしみで引き受けたということか。
「先輩は、会長とは仲がよろしいのですか?」
「え? いや、あんまり接点はないかな。近所だから、たまに顔を合わせることはあるけど」
「ですが、あまり目障りだと思うようなことはなかったわけですね」
「め、目障り……? ええと……、三澄さんは、一城が嫌いなの?」
言いにくそうに、だがストレートに先輩が聞いてきた。
何を今更。
私は舌で唇をしめらせてから答えた。
「すでにご存じかと思っていましたが……。ええ、大嫌いですよ、あんな怪物」
人通りが多くなってきた。目の前の雑貨店には女子生徒の固まりがいくつもできて、賑やかさが増している。
私と会長の不和は隠していない事もあり、割と知られていると思っていた。が、先輩はそうではなかったようだ。目を丸くして絶句しているので、さらに付け足す。
「一年の時なんて、生徒会役員どころか帰宅部だったくせに、次期生徒会長確実と言われていた私を押しのけて会長職に就いたんです。嫌みったらしく副会長なんかに私を指名したりして。顔だけの人物かと思いきや、実力が人並み以上にありましたから、余計に腹が立ちますね」
天才と呼ばれる人の計り知れなさに何度打ちのめされたか。
凡人は所詮何をやっても適わないのだと、一番近くで思い知らされるたび、嫌悪感が募っていく。
「ですが、安心してください。別に無理矢理署名していただくつもりはありませんから」
「あ、ああ……うん」
微妙な表情で私の言葉を聞いていた亜樹先輩が、ぎこちなく頷く。彼からは共感を得られると予想していたのだが、その表情からはどちらとも読み取れない。
特に何も思わなかったのか。いや、会長と葉琉先輩が子どもの頃からそばにいたのだ。その存在に圧倒されないなんて事は考えられない。現に、さっきは自虐めいた発言をしていたではないか。
きっと、感情を殺すのに慣れたか、もしくは、うまく折り合いをつける方法を身につけたのだろう。
「…………」
「…………」
……いや、変に勘ぐるのはよそう。彼と関わり合うのは今回だけだ。署名もしてくれそうにないし、どうでもいい相手ではないか。
微妙な空気になってしまったので、私は一度溜息をつくと、周囲の監視に集中した。
行き交う人々は思い思いに買い物をしたりおしゃべりをしたりしているだけで、残りの時間も何事もなく過ぎていく。その間、亜樹先輩は何か言いかけては口を閉じを繰り返していて、やけに落ち着きがなかった。
そろそろ三十分、という時、意を決したように先輩が声を発した。
「と、ところで、女の子って、どういうのが好きかな!?」
「……は?」
あまりにも突拍子のない質問に、声から礼儀が剥がれ落ちた。
先輩は目の前のやたらピンクなキラキラした空間を指さしているが、突然すぎて意図がわからない。
「いや、あの、せっかくこういう場所にいるんだし、将来のためにリサーチしておこうかと思って! どういう物もらったら女の子は嬉しいのかな!? 例えば、三澄さんだったら!」
「はあ……」
なるほど。恋人へのプレゼントでも物色するつもりなのか。不真面目にも程がある。
だがまあ、もう少しで予定の時間も終わりだ。他愛のない雑談に少しくらい付き合ってもいいだろう。
「私の意見はあまり参考にならないと思います。むしろ、その彼女さんの趣味を教えていただいた方が、的確な助言ができるかと」
「えっ、か、彼女!?」
亜樹先輩は目を白黒にして動揺した。
「や、違……っ! 彼女なんていないから! ただ、俺は今後のためにと……!」
「別に隠さなくても結構ですよ。言いふらしたりはしませんし。用途はなんですか? 誕生日プレゼントとか、何かのお詫び……、ああ、もしかして、付き合って一年目の記念日とか」
「いや、だから、いないんだって! ……わ、わかった。じゃあ、妹とか! 一つ下くらいの妹に贈るとしたら、何がいいだろう!?」
「妹さんがいらっしゃるんですか。なら、その方に直接何が欲しいか聞くのがいいのでは」
そう言うと、亜樹先輩は視線を落としてつぶやいた。
「いや……、妹は、いないんだけど……」
「さっきから何を言っているんですか、あなたは」
私は呆れて彼をまじまじと見つめた。
理知的な顔立ちをしているが、実はおつむが弱いのだろうか。
あまりにじっくり見つめすぎたせいか、先輩がどんどんうつむいていく。
「ごめん……、さっき言ったこと、全部忘れて……」
「よろしいのですか? 想像上の妹さんにプレゼント買わなくても」
「それは言葉の綾だから! っていうか、わかってて言ってるでしょう、三澄さん!」
先輩が何をしたかったのかは不明だが、とりあえず今日のノルマは達成した。
報告は先輩が後でまとめてすると言っていたので解散しようとしたとき、先輩のケータイが着信音を鳴らした。
「あれ? 一城からだ」
私はなんとなく嫌な予感がした。
私は思わずつぶやいた。バスケ部部長と同じ名字だ。珍しい名字だし、顔や雰囲気は似ていないが、無関係とは思えない。
「単刀直入にお聞きしますが、あの鈴城先輩とは何か関係が?」
「あの鈴城先輩……ね」
彼は複雑そうな表情で微笑した。遅ればせながら、自分の失言を悟る。
「すみません。失礼な言い方をしてしまいました」
「いや、いいんだ。たぶんみんなそう思ってるだろうしね」
彼は自嘲じみた言い方をして、続けた。
「俺とあいつは双子だよ。数分の差で俺が兄だけど。二卵性だから似てないんだ」
(……双子、ですって?)
私は眉をひそめる。
鈴城先輩が双子だなんて話、聞いたことがない。バスケ部は私の担当ではなかったから今回特別に調べたりはしていないが、あれほど有名な人に兄弟がいたら、さすがに私も知っているだろう。
「信じられないって顔してるね。俺、目立たないからさ」
「目立たない……なんてことは、ないと思いますが」
鈴城亜樹先輩を、正面から観察する。
バスケ部部長の葉琉先輩と違い、顔のつくりはどちらかといえば女性的だし、精悍というよりは文学青年っぽい外見をしている。共通点があるとしたら背の高さくらいか。
だが、目立たないという評価には疑問を抱く。
月並みな例えだが、葉琉先輩が太陽だとすれば、亜樹先輩は月といった印象だ。たしかにパッと目を惹くタイプではないが、姿勢が良く無駄のない身のこなしに、すでに何人かが振り返っている。
そう言うと、亜樹先輩は頬を赤らめた。
「え、あ、ほんと……? そう言ってもらえると嬉しいけど……」
「鈴城先輩……いえ、葉琉先輩とはあまり一緒にいらっしゃらないんですか?」
「あー……、まあ、あいつとは、部活もクラスも違うしね。でも、文化祭とか、一緒にまわったりもしたよ」
「……そうですか」
あまりに似ていないため正体を疑ってしまったが、腕章と資料を持っているのだし、会長から打診があったことに間違いはないだろう。そこさえわかれば、この際彼がどこの誰だろうと構わない。
私はシワのついたプリントを伸ばして、地図の右脇に書かれた注意事項を確認した。
「毎日場所が変わるんですか。今日は……この雑貨屋の前で三十分」
亜樹先輩も隣からのぞき込み、口元に手を当てる。
「ところで、不思議だったんだけど、同じ場所に立ってるだけでいいの? 巡回って普通、歩きまわったりするよね。まあ、この辺あんまり知らないから、俺にとってはその方がありがたいけど」
「……おそらくここが、ホットスポットということでしょう」
首をかしげた彼にわかるよう、私は説明する。
「ホットスポットとは、犯罪多発地点のことです。手当たり次第にうろつきまわるより、そういった場所に一定時間とどまる方が、防犯効果が高いと言われています。犯罪を計画している者が、その内容がばれていると勘違いするせいではないかということのようですね」
「へえ……、そうなんだ」
心底感心したように亜樹先輩が息をついた。
「すごいね、三澄さん。そんなこと知ってるんだ」
「ちゃんとした説明は受けていないので憶測ですが。三十分は、少し長いような気もしますし。先輩は、この件について何か聞かされていないんですか?」
「え? ……うん」
「何もですか? 会長から頼まれたんですよね?」
「そ、そうなんだけど……」
責めたわけではないのだが、彼が傷ついたように眉を下げた。まさか、本当に何の説明も受けていないのか。
さすがに彼に同情する。三年生は、部活動によっては、引退して受験に専念する頃だというのに。
もしかして、会長に弱みでも握られて、無理強いさせられているのだろうか。
見回りついでに、彼の様子を観察する。
不審な動きをしている者なんてそう簡単に見つかるわけがない。周囲の人たちを眺めているだけの時間に、先輩は次第に飽きが来たようだ。
彼のそわそわした雰囲気を感じ取った私は、鞄の中からバインダーに挟んだ書類を取りだして彼に見せた。
「もしよろしければ、こちらに署名していただけませんか?」
「え? なに、これ?」
彼は表題の「現・生徒会長一城兼人のリコール請求」という文字を見て、顔を引きつらせた。
「署名を集めています。全校生徒の三分の一以上の署名を集めれば、選挙管理委員会に会長の解職請求をすることができます」
「ご……ごめん。遠慮しときます……」
彼はまだわずかしか集まっていない署名のプリントをすぐに返してきた。
数少ない署名のほとんどが男子生徒のもの。生徒会長の人気をひがんでいたり、嫉んでいたりする生徒ばかりだ。しかも、しばらく前からその数は全く増えていない。
「一応これでも、あいつとは幼なじみなんだ。申し訳ないけど、顔をつぶすようなことはできないよ」
「そうですか。そういうことなら、仕方ありません」
私は即座に鞄にしまう。
署名については特に残念ではない。今焦らなくても、今週末には、十分な数が集まる予定なのだ。
しかし、少し意外だった。会長に無理にかり出されたのならば不満もあるだろうと思ったのだが、そうではないらしい。
だとすると、幼なじみのよしみで引き受けたということか。
「先輩は、会長とは仲がよろしいのですか?」
「え? いや、あんまり接点はないかな。近所だから、たまに顔を合わせることはあるけど」
「ですが、あまり目障りだと思うようなことはなかったわけですね」
「め、目障り……? ええと……、三澄さんは、一城が嫌いなの?」
言いにくそうに、だがストレートに先輩が聞いてきた。
何を今更。
私は舌で唇をしめらせてから答えた。
「すでにご存じかと思っていましたが……。ええ、大嫌いですよ、あんな怪物」
人通りが多くなってきた。目の前の雑貨店には女子生徒の固まりがいくつもできて、賑やかさが増している。
私と会長の不和は隠していない事もあり、割と知られていると思っていた。が、先輩はそうではなかったようだ。目を丸くして絶句しているので、さらに付け足す。
「一年の時なんて、生徒会役員どころか帰宅部だったくせに、次期生徒会長確実と言われていた私を押しのけて会長職に就いたんです。嫌みったらしく副会長なんかに私を指名したりして。顔だけの人物かと思いきや、実力が人並み以上にありましたから、余計に腹が立ちますね」
天才と呼ばれる人の計り知れなさに何度打ちのめされたか。
凡人は所詮何をやっても適わないのだと、一番近くで思い知らされるたび、嫌悪感が募っていく。
「ですが、安心してください。別に無理矢理署名していただくつもりはありませんから」
「あ、ああ……うん」
微妙な表情で私の言葉を聞いていた亜樹先輩が、ぎこちなく頷く。彼からは共感を得られると予想していたのだが、その表情からはどちらとも読み取れない。
特に何も思わなかったのか。いや、会長と葉琉先輩が子どもの頃からそばにいたのだ。その存在に圧倒されないなんて事は考えられない。現に、さっきは自虐めいた発言をしていたではないか。
きっと、感情を殺すのに慣れたか、もしくは、うまく折り合いをつける方法を身につけたのだろう。
「…………」
「…………」
……いや、変に勘ぐるのはよそう。彼と関わり合うのは今回だけだ。署名もしてくれそうにないし、どうでもいい相手ではないか。
微妙な空気になってしまったので、私は一度溜息をつくと、周囲の監視に集中した。
行き交う人々は思い思いに買い物をしたりおしゃべりをしたりしているだけで、残りの時間も何事もなく過ぎていく。その間、亜樹先輩は何か言いかけては口を閉じを繰り返していて、やけに落ち着きがなかった。
そろそろ三十分、という時、意を決したように先輩が声を発した。
「と、ところで、女の子って、どういうのが好きかな!?」
「……は?」
あまりにも突拍子のない質問に、声から礼儀が剥がれ落ちた。
先輩は目の前のやたらピンクなキラキラした空間を指さしているが、突然すぎて意図がわからない。
「いや、あの、せっかくこういう場所にいるんだし、将来のためにリサーチしておこうかと思って! どういう物もらったら女の子は嬉しいのかな!? 例えば、三澄さんだったら!」
「はあ……」
なるほど。恋人へのプレゼントでも物色するつもりなのか。不真面目にも程がある。
だがまあ、もう少しで予定の時間も終わりだ。他愛のない雑談に少しくらい付き合ってもいいだろう。
「私の意見はあまり参考にならないと思います。むしろ、その彼女さんの趣味を教えていただいた方が、的確な助言ができるかと」
「えっ、か、彼女!?」
亜樹先輩は目を白黒にして動揺した。
「や、違……っ! 彼女なんていないから! ただ、俺は今後のためにと……!」
「別に隠さなくても結構ですよ。言いふらしたりはしませんし。用途はなんですか? 誕生日プレゼントとか、何かのお詫び……、ああ、もしかして、付き合って一年目の記念日とか」
「いや、だから、いないんだって! ……わ、わかった。じゃあ、妹とか! 一つ下くらいの妹に贈るとしたら、何がいいだろう!?」
「妹さんがいらっしゃるんですか。なら、その方に直接何が欲しいか聞くのがいいのでは」
そう言うと、亜樹先輩は視線を落としてつぶやいた。
「いや……、妹は、いないんだけど……」
「さっきから何を言っているんですか、あなたは」
私は呆れて彼をまじまじと見つめた。
理知的な顔立ちをしているが、実はおつむが弱いのだろうか。
あまりにじっくり見つめすぎたせいか、先輩がどんどんうつむいていく。
「ごめん……、さっき言ったこと、全部忘れて……」
「よろしいのですか? 想像上の妹さんにプレゼント買わなくても」
「それは言葉の綾だから! っていうか、わかってて言ってるでしょう、三澄さん!」
先輩が何をしたかったのかは不明だが、とりあえず今日のノルマは達成した。
報告は先輩が後でまとめてすると言っていたので解散しようとしたとき、先輩のケータイが着信音を鳴らした。
「あれ? 一城からだ」
私はなんとなく嫌な予感がした。