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永野綺世。
20歳になった。
20年、ボロボロながらに生きた。
──ブーッ、ブーッ、
四度目の着信が鳴った。知世。今日、4回スマホの画面に示された名前。震える手で、通話ボタンを押した。
《新しい一年、始まっちゃったね。調子はどぉ?おれの名前、忘れてない?》
知世。世界を知るで、君の名前は知世だ。覚えている。簡単に忘れられるような男ではない。
《綺世、これはおれのでけぇ独り言だから適当に流して》
20歳の誕生日、私は知世の独り言を聞いた。
《久しぶりで無理だね、やっほー、電話に出た つまり綺世、おまえはあれから5年も生きた。すげーよ、快挙だ。綺世の顔と名前と存在。おれは今日もおまえが好きだ、忘れてねーよ、綺世にヒトメボレしたこと。相変わらずおまえの名前は声に出すと美しいよ、あやせあやせあやせあやせあやせ、アヤセ、ながのあやせ。はあなにこの気持ち悪い独り言。ちげーよ、本題はな、綺世。
綺世にとって難しいこととか辛いことはやらなくていーもと思う。おまえ15で不登校経験した元祖サイキョウ中学生じゃん。人生反抗期、向かうとこに敵はいたか?バカでも運動音痴でもコミュ障でも、綺世は綺世なんだ。呼吸するだけでいい。永野綺世は生きてるって、誕生日が来る度に実感してほしい。この5年、ボロボロかツルツルかピカピカかは知らんけどおまえは生きた。可能な限りおまえが生きてておれは嬉しいよ綺世。けど無理はすんな、死にたくなったら死ね。これはおれの、おまえへの本気の全力の、5年前から変わんねえメッセージな。あと、矛盾だらけのおれのこと、この先も忘れないで。おまえの人生に干渉すること、それがおれの生きる意味になってんだよな、知らんけど。とりあえず次にキリいいのは22か?ゾロ目って縁起良さそうなんで。綺世が生きてて、おれも生きてたら、また、告白するよ。お前の名前と顔と、存在が、好きってね。これはさぁ、誰がなんと言おうと恋だぜ。キモくても、理解できないって言われてもやめられん。だってこれ、ヒトメボレだぜ》
《なぁ、綺世、》