中学2年生の時の話だ。
三森 知世(ミモリ チセ)という男に、好きだと言われた。


「おれの名前、知ってる?」
「わか……、わからない」
「あー、ぽいぽい。おれね、知世。世界を知るって書くから、よろしく。綺麗な世界さん」
「綺麗な世界……」
「おまえの名前と顔にヒトメボレした。だからとりあえず、おまえのこともっと知りたい所存である」



クラスメイトの名前は知らなかった。その頃にはもう不登校になりかけていたので、覚えられるほど学校に行っていなかったのだ。当然のことながら私は知世のことを知らず、また、名前と顔だけで私を好きだという知世の感性も分からなかった。


「おれの名前覚えろよ」
「ケータイもってる?番号おしえて」
「おまえ誕生日いつ?」
「綺世、おれがお前のことほっといてもほっとかなくても、知らないうちにシンデソー、だよな」


仮にも好きな女に言うセリフではなかった。知らないうちに死んでそう。そんな女を好きだという知世はどういうつもりだったのか。これまでもこれからも、知世から貰った「好き」の真意を聞くことは無いような気がしていた。


知世とは、友達と呼べるほど関わった記憶はなかった。むしろ、知世は中学生にしては大人びて端正な顔立ちだったので、知世に好かれたことにより私への虐めは激化した。

知世は助けてくれなかった。好きだというくせに、見て見ぬふりをしていた。それもそれでよく分からなかったけれど、べつにそれで良いとも思っていた。

当たり前のように私は不登校になったわけだが、その後一度だけ、知世から着信があった。15歳の誕生日のことだった。




《新しい一年、始まっちゃったね。調子はどぉ?おれの名前、忘れてない?》


知世。世界を知るで、君の名前は知世だった。覚えている。簡単に忘れられるような男ではない。



《綺世、これはおれのでけぇ独り言だから適当に流して》



15歳の誕生日、私は知世の独り言を聞いた。


















《綺世の顔と名前、おれは今日も好きだと思った。お前以上にその名前が似合うやついねーと思うんだよな、知らんけど。ヒトメボレって言葉、もう多分おまえ以外に使えねーわ。だってヒトメボレだよ、綺麗な世界って。まじおまえの両親センスアリ太郎かよってな。はあなにこの独り言。ちげーよ、本題は。

綺世にとって難しいこととか辛いことはやらなくていーと思う。おまえ15で不登校経験してるサイキョウ中学生じゃん、人生反抗期、向かうとこ敵無しだぜ。バカでも運動音痴でもコミュ障でも、綺世は綺世なんだ。呼吸するだけでいい。永野綺世は生きてるって、誕生日が来る度に実感してほしい。ボロボロでもいいから、可能な限り生きろよ綺世。けど無理はすんな、死にたくなったら死ね。あと、矛盾だらけのおれのこと忘れないで。とりあえずキリいいから、20歳まで綺世が生きてて、おれも生きてたら、また、告白させて。


お前の名前と顔と、存在が、好きってさ》