兄のマイスの聴取を終えた後。
 拘束されたマイスは学園長さんの部屋から連れ出されて、国家魔術師連合の人に身柄を引き渡された。
 学園長室には僅かな先生たちと私だけしかいなくなったので、学園長さんは擬態の魔法を解いて金髪幼女姿に戻る。
 私も因縁深き相手が目の前からいなくなったことで、深い安堵を覚えていると、不意に学園長さんから声を掛けられた。

「すまなかったな、サチ・マルムラード」

「えっ? 何がですか?」

「マイス・グラシエールとの関係も知らずに、無遠慮にこの場に呼び出してしまって。不要に辛い思いをさせてしまった」

「あぁ、まあ……」

 改まって謝罪されると、それはそれで反応に困るというか。
 確かに最初は驚いたし、マイスと話したことで不快な気持ちを覚えたのは事実だけど……

「むしろ、この場に呼んでもらえて、こっちが感謝しているくらいですよ」

「んっ? な、なぜじゃ……?」

「辛い思いはしましたし、昔の嫌なこととか思い出しちゃったりもしましたけど、それ以上に今は清々しい気分になっているので。これで晴れて私は、完全にグラシエール家とは縁が切れたように思いますから」

「……」

 心のどこかで私は、まだあの家と関係が繋がっているように感じていた。
 兄のマイスは同じ学園に通っているということを、後になって知ったし。
 魔術師の世界で生きていく以上、あの家との関係を完全に断つことはできないのだと思っていた。
 しかし今回の暴走事件をきっかけに、マイスは学園を追われることになった。
 もう私のそばに、過去の出来事とあの家を想起させてくる存在はいない。
 何よりずっと抱え込んでいた不満を、こうして直接マイスにぶつけることができた。
 だから私の気持ちは今、快晴の空のように晴れ渡っている。

「ですから、兄に面と向かってガツンと言える機会をくれて、ありがとうございます」

「……そう言ってもらえると助かる」

 学園長さんは安心したように胸を撫で下ろしていた。

「それよりも、兄から得た情報は役に立ちそうでしょうか?」

「んっ? あぁ、それはもちろんじゃ。おかげで此度の魔術師暴走事件の真犯人が、反魔術結社ミストラルであるということがわかったしの」

 次いで学園長さんは、窓の外に目をやりながら真剣な声音になって続ける。

「これで意識不明の暴走者を回復させる手段も、ミストラルから直接聞けばよいとわかった。すでに国家魔術師連合にも情報を共有させてもらったからの、いよいよ本格的に奴らとの全面戦争になるじゃろう」

「……」

 国家魔術師連合とミストラルの戦争。
 ついにこの時が来てしまった。
 度々、魔術学園にもちょっかいを掛けて来ていた反魔術結社ミストラル。
 同様に魔術国家オルチャードにも、これまで様々な方法で攻撃を仕掛けて来ていた。
 その長年の意趣返しを、いよいよこの時を持ってするつもりらしい。

「今までは些細なちょっかいばかりだったからの、魔術国家側も終始受け手に回っておったが、此度の魔術師暴走事件によって多数の被害と犠牲者を出してしまった。目を瞑っていられん組織だと断定したのじゃろう。ワシとしては腰が重すぎるのではと言いたくなるが」

 うんざりした様子でため息を吐く学園長さん。
 魔術国家そのものに悪態をつけるのは国中を探しても彼女くらいなのではないだろうか。
 同じ真似はできないなぁ、なんて思っていると、学園長さんがさらに続けた。

「ま、腰が重くなるのもわかる気はするがの。まだ具体的に奴らの居場所も特定できておらんし、これまであらゆる手を使ってもまるで尻尾を掴むことができなかったのじゃから。これでは戦の仕掛けようもない」

「えっ、ミストラルがどこにいるのか、まだわかってないんですか?」

「わかっておったらとっくに国家魔術師の総軍を送り込んでおるわ。奴らは逃げ隠れするのが上手くての、足取りをまったく気取らせないんじゃよ」

 どうりで今まで魔術国家側が防戦一方だったわけだ。
 ていうかそうだよね。悪の組織がどこにいるのかわかったら、即座に対応しているはずだよね。
 するとその話を聞いていた一人の先生が、不意に学園長さんに声を掛ける。

「あの、その件についてなのですが……」

「んっ?」

「国家魔術師連合から、学園内の調査を要請されております」

「調査?」

「今回の星華祭にて暴走事件が発生し、学園内にミストラルの人間が立ち入った恐れがあります。また、学園側に内通者が存在している可能性もあるため、足取りを掴むために精密な学園調査をと……」

「ま、そう言われるとは思っておったがの。魔術国家側も奴らの尻尾を掴むのに、使えるものはなんでも使っていくつもりみたいじゃな。その考え方は嫌いではないが、一つ一つしらみ潰しにしていかんと考えると、途端にやる気がのぉ……」

 学園長さんは再び辟易したように肩を落とした。
 内通者の調査とミストラルの痕跡探し。
 それが上手く行けば、今まで尻尾を掴ませなかったミストラルを探し当てることができるかもしれない。
 そう思って国家魔術師連合も、学園側に調査を要請してきたのだろうけど、学園長さんからしたらなかなかに大変だ。
 まあ、ただでさえ学園は広いし、その中を隅々まで調べ尽くすのはかなり骨が折れるだろうから。
 加えて学園内に内通者がいるかどうかも調べなければならない。
 肉体のみならず、精神的にも疲労は必至だ。

「あっ……」

 と、そこまで考えた私は、ふとあることを思いついてしまった。
 内通者探し。ミストラルの関係者を探し当てればいいってことだよね?
 それなら、私でも“手伝える”かも。

「あの、一つだけ試してみたいことがあるんですけど……」

「……?」

 かなり“運頼み”な方法だが、私は思いついた案を学園長さんたちに話すことにした。