『おおっと! 手練れの三年生が黒光霊(ルミエール)の出現に合わせて下級生たちの隙を突いたー!』

 我先にと黒光霊(ルミエール)に飛びかかっていった下級生たちは、三年生たちに鈍足効果のある魔法をかけられてしまう。
 直後に三年生同士も激しい争いを見せて、僅かに先行した三年D組が新たな動きを見せた。

『今度は三年D組が障壁魔法を使って、黒光霊(ルミエール)を完璧に囲いましたー! これならば透明化する黒光霊(ルミエール)も簡単に捕らえることができます!』

 その実況の通り、三年D組の生徒が障壁魔法の囲いの中で、見事に黒光霊(ルミエール)を捕獲した。
 あまりの手際の良さに、私も思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
 皆の注意が黒光霊(ルミエール)に向く中、弱体化魔法で他クラスを妨害する。
 そのまま立て続けに障壁魔法で黒光霊(ルミエール)を囲い、確実に捕まえられるようにした。
 いくら黒光霊(ルミエール)が透明化の能力を持っているからと言って、狭い囲いの中ならば感知魔法と身体強化魔法を使えば容易に捕らえることができる。
 クラスの仲間たちと一緒に、入念に競技練習した結果だろう。

「くそっ! やられた!」

「黒光霊(ルミエール)に気ぃ取られすぎた!」

 妨害魔法を受けた生徒たちは、重そうな脚を動かしながら他の光霊(ルミエール)を追い始める。
 しかし先刻の一撃が相当効いているようで、思ったように光霊(ルミエール)を捕らえることができていなかった。
 一年A組のクラスメイトであるオーベルとアスペルジュも、同様に顔をしかめている。

「くっ、こんなはずでは……!」

「……っ! ……っ!」

 それでも必死に光霊(ルミエール)を追い続けて、なんとか少しずつ点数を稼いでいった。
 だが……

『再び黒光霊(ルミエール)が出現しました! しかも今回は三匹同時です!』

 その後に現れる黒色の光霊(ルミエール)も、三年生たちによって乱獲されてしまった。
 一人が妨害魔法で他の生徒を追い払い、一人が障壁魔法で黒光霊(ルミエール)を囲って、一人がその中で標的を捕らえる。
 すでにこちらの仲間が弱体化させられている、ということに拘らず、圧倒的な連携力の差で点数を引き離されてしまった。

『やはり年の功には敵わないのか、三年生たちが凄まじい勢いで黒光霊(ルミエール)を捕獲していきます! 下級生たちは追いつくのがやや苦しいか……!』

 確かにこのままではまずい。
 黒色の光霊(ルミエール)の点数はあまりにも大きく、それだけで相当な差が生まれてしまっている。

「【賽は投げられた――神の導き――恨むなら己の天命を恨め】――【運命の悪戯(フォル・トゥーナ)】!」

 一応、私も身体強化魔法や拘束魔法を使って応戦しているけれど、三年生の防御が固くて捉え切れていない。
 それに三年生たちの動きを止めたところで、この競技は光霊(ルミエール)を捕まえて点数を稼がなければ勝つことができないのだ。
 感知魔法を使えない私だけでは、黒色の光霊(ルミエール)を捕まえることができず、点差を詰めるのは難しい。
 ……まあ、一つだけ手がないわけじゃないけど。

『制限時間は十分を切りました! ここから逆転するクラスは果たして出てくるのでありましょうか……!』

 その声を聞いて、私は思わず唇を噛む。
 直後、あまり気が進まなかったが、光霊(ルミエール)を追うオーベルとアスペルジュの元まで行って声を掛けた。

「ね、ねえ……」

「……?」

「私たちも力を合わせよう」

「はっ?」

 オーベルは不機嫌そうに顔をしかめる。
 ただでさえ他のクラスに点差を開かれて憤っているというのに、そのうえ私にまで話しかけられてさぞ気分が悪そうだった。

「平民風情が、いったい何の冗談を言っているのですか……! この競技は私とアスペルジュの二人だけで充分と言ったはずです! あなたは大人しく後ろの方に……」

「いやでも、二人だけでなんともなってなくない?」

「うぐっ……!」

 図星を突いてしまったのか、オーベルは頬を引き攣らせて口籠ってしまう。
 しかしすぐに咳払いを挟んで気を取り直すと、周りを警戒しているアスペルジュに同意を求めるように声を掛けた。

「こ、これから逆転するつもりだったのですよ! まだ十分も時間が残されていますし、変に焦る必要はありません……! そ、そうですよねアスペルジュ!」

「……っ!? ……っ! ……っ!」

 アスペルジュは突然話を振られたせいで、戸惑ったように目を泳がせる。
 しかしすぐにこくこくと頷いて同調した。
 その後、オーベルは手近なところにいる光霊(ルミエール)を捕まえながら、調子を取り戻したように私に言ってくる。

「だいたい、平民のあなただって何もできていないではないですか! それなのに偉そうに指図して来ないでください!」

「べ、別に偉そうにはしてないんだけど……」

 オーベルの表情には、憤りと焦りが激しく滲んでいる。
 本当にアスペルジュと二人だけで競技に勝つつもりだったらしい。

「私は必ず、この競技でトップを取って、マロン様に勝利を捧げなければならないのです……! ここできちんと活躍することができれば、私はようやく、代表者のマロン様と対等な関係に……!」

 対等な、関係……。
 どうやらオーベルも、何かしらの目的があって競技に臨んでいるようだった。
 他の生徒からの妨害魔法を捌きながら、彼女は心中を吐露する。

「実力もない、実績もない、人望もない、それで軽々しくマロン様と話すことなんて、私には到底できません! だというのに、それに加えて家章もないあなたが、普通に彼女と話しているのが心の底から許せません!」

 針のように鋭い視線が、眼鏡の奥からこちらに飛んでくる。
 マロンさんのようなすごい人と、対等な関係で話せるように、星華祭で活躍しようとしているってことか。
 目的は違えど、彼女もまた星華祭に熱い想いを掛けている生徒の一人。

「…………確かに私には、実力も実績も人望も、何もないかもしれない。それでも、星華祭で勝ちたいって気持ちは、オーベルたちとまったく同じだよ」

「いいえ違います……! 私とあなたの気持ちを同じにしないでください……! 私の志はそんなにちっぽけなものでは……」

「同じだよ。だって私も、マロンさんのために戦ってるから」

「えっ……?」

 思いがけない告白に、オーベルは目を見張って言葉を失った。