ベッドの脇で椅子に座るミル。
 そのミルの近くで簡易的な止まり木に止まっているマルベリーさん。
 どうやら先ほどの話し声は二人のものだったようだ。
 と、そこまで確認した後で、私はおもむろに辺りを見渡す。

 左右の壁に四つずつベッドがある大部屋。
 ベッドの間にはそれぞれ仕切り用のカーテンがあり、部屋の端には何かしらの薬品などが入った棚も置かれている。
 他にも背や体重を測る器具や、応接用の椅子と机も一式見えて、その景色に記憶を刺激されながら私は呟いた。

「ここは……」

「魔術学園の保健室ですよ。担当のポム先生は用事でいませんけど」

 あぁ、そうだ。
 ここは前にも一度訪れたことがある保健室だ。
 パッと思い出せなかったのは、いまだに頭がぼんやりしているせいだろうか。
 怪我をしたマロンさんの様子を見に来たのは、つい最近の出来事だというのに。
 と考えているのを見抜いてきたかのように、ミルがさらに続ける。

「つい昨日まではマロンさんもここで静養していたんですけど、体調が回復したので寮に戻ることになったんですよ」

「つい、昨日……?」

 その聞き捨てならない情報に、私は思わず前のめりになって問いかける。

「わ、私って、いったいどのくらい……!」

『丸二日ですよ』

 その問いに、ミルに代わってマルベリーさんが答えてくれた。
 丸二日。
 あれからそんなに時間が経っていたのか。
 正直自分としては、ついさっき目を閉じて今開けたくらいの感覚なんだけど。
 でも確かに校庭のベンチから場所が変わっているし、ミルもこうして学園に帰って来ている。
 私、そんなに眠っていたんだ。

『あの後、サチちゃんは校庭のベンチで意識を失ってしまったんです。そのサチちゃんをポワールちゃんが抱えて、保健室まで運んでくれたんですよ』

「ポ、ポワールさんが……?」

 あの小さな体のどこにそんな力が……
 と一瞬だけ疑問に思うが、身体強化魔法を使ったのだとすぐに気が付く。
 そんな彼女の姿はここにはないようで、すぐにそのお礼を伝えることはできそうになかった。

『保健室のポム先生は、ただの疲れが原因だと仰っていました。長く気を張り詰めていたため、精神的に摩耗して眠ってしまったのではないかと』

「ははっ、疲れてるのは自覚してたけど、まさか丸二日寝込むほどだったなんて……」

 それほどまでに緊張していたということだろう。
 それも無理はないか。
 だって絶対に失敗できない場面の連続だったから。
 ミストラルの隠れ家で兵士たちと戦ったり、その主であるアリメントと直接対決したり。
 最後にはマルベリーさんの冤罪を晴らすために、町の人たちの前で声だって張り上げたんだから。

「私もつい先ほど学園まで戻って来て、サチさんが寝込んでいると聞いて驚いて飛んで来たんですよ。あのサチさんが意識を失ったなんて信じられなくて」

「私をなんだと思ってるの。私だって普通の女の子なんだから、倒れたりすることだって当然あるよ」

 ミルはよくよく、私のことを過大に評価しがちだ。
 少し特殊な人間であることは自覚しているけれど、体力知らずの化け物ってわけじゃないんだから。
 そんな会話をしているうちに、次第にぼんやりとした意識が覚醒に近づいてきた。
 次いで私は遅まきながら、事件のその後について尋ねる。

「ミルがここにいるなら聞く必要ないと思うけど、ミストラルの人たちはどうなったの?」

「全員無事に連行して、今は国家魔術師さんたちの元に捕らえられていますよ。今後の処罰について政府や教会と色々と話しているみたいです」

 続けてミルは、事件後の諸々の話をまとめて教えてくれた。
 地下迷宮で研究員たちを拘束した後、第五層の研究層で大災害計画の証拠を収集したこと。
 暴走したシャン・ギャランとシャン派の国家魔術師たちが、現在治療中ということ。
 それらも押収した魔道具を解析することで治療方法が判明するということ。
 その他にも私の兄を含めた暴走者たちの治療も、魔道具解析によって本格的に進められるとのことで、反魔術結社ミストラルが起こした事件の数々は緩やかにだが解決に向かっているとのことだった。

「ヴェルジュさんも本格的に王様を目指すと宣言して、二度とミストラルのような反乱因子が現れないように魔術国家の考え方を変えていくと国民たちに発表していましたよ」

「何はともあれ、これでひとまずは一件落着ってことだね。もちろん目に見えない問題はまだまだ山積みなんだろうけど」

「それは国家魔術師の皆さんにお任せしましょう。私たちの出番はこれで終わりですから」

 改めてミルからその言葉を聞いて、私はようやく肩に乗っていた鉛のような荷が下りる。
 けれど、ミルはいまだに複雑そうな顔でこう呟いた。

「まあ、私はまだプラムちゃんの処罰が決まるまでは、気が休まりそうにありませんけど」

「……なんとか酌量してもらえたらいいんだけどね」

 プラムが国家魔術師たちに与えた傷はかなり深いものだ。
 一応治療の目処は経っているけれど、それも魔道具解析の成否によって雲行きは変わる。
 それ以前に多くの優秀な国家魔術師たちに危害を加えた時点で、当然死罪は免れないだろう。
 だからミルはあの手この手で有力者たちにも口添えしてもらって、彼女の酌量を求めたらしい。
 その決定が正式に下るまでは、ミルの心は休まらないということだ。
 事情や年齢を考慮して、処罰が軽くなればいいけれど、こちらはあとは祈るばかりである。
 マルベリーさんもあらかたの事情をすでに聞いているらしく、ミルのことを優しげに見守っていた。
 と、そこで私は、遅まきながら気が付く。

「そういえば二人のこと紹介し忘れてたね。って、これもたぶん今さら必要ないと思うけど……」

 そう言いつつも、私は二人の間に挟まるように両者を紹介する。

「この子が私の相棒でルームメイトのミル。で、こっちが今はフクロウの体に入ってるけど、私の師匠で大切な家族のマルベリーさんだよ」

「もう知ってますよ」
『もう知ってますよ』

 私の紹介に対し、二人は見事に声を重ねた。
 まあ、私が寝ている間にすでに色々と話し込んだみたいだし、今さら紹介とか意味なかったか。

『今回の一件について把握し切れていないことなど多かったので、襲撃隊の様子などミルちゃんから色々と聞いたんですよ』

「その時にお互いのことも話して、あとはサチさんのことについてもたくさんお話ししました」

「私のことについてって、どうせ私のだらしないところを話して盛り上がってただけでしょ」

「自覚してるなら直してくださいよ」
『自覚してるなら直してくださいよ』

 と、二人は再び声を重ねる。
 それを恥ずかしく思ったのか、ミルとマルベリーさんは気まずそうに顔を俯けてしまった。
 なんだこのシンクロ率は。

「もう私よりも息ぴったりじゃん。まあ、二人はなんとなく気が合うような気がしてたから、いつか絶対に会わせてみたいなって思ってたんだ」

「そういえばお師匠さんの話をする度に、そう言ってましたもんね」

 純粋に私の親友と師匠だから、二人には親しくしてもらいたいと思っていた。
 それ以外にもまあ、二人を会わせたらどんな化学反応が起きるのか期待していた節もある。

「けどまさか、私のだらしない話題で盛り上がっちゃうなんてとんだ誤算だよ。なんで私の周りってしっかりした人が多いんだか」

『確かにミルちゃんは、昔の私に少し似ている気がしますね。こういう子がサチちゃんの隣にいてくれると、師匠としてはとても安心ですよ』

「似てる……?」

 確かに仕草や口調、大人しげな雰囲気は近しいものを感じるけど……
 私は椅子に腰掛けているミルの体(具体的には首と腹部の間)に目を止めて、ふむと首を傾げた。

「似てる、かな……?」

「どこ見て言ってるんですか!」
『どこ見て言ってるんですか!』

 二人に呆れた目を向けられてしまう。
 いやだって、二人には明らかに天と地ほど違う点があるから。
 むしろ身体的な特徴については、マロンさんの方が似てるかも。

「と、というか、マルベリーさんって、その……そんなにすごいんですか?」

「覚悟しといた方がいいよ。びっくりしすぎて気ぃ失わないように」

『変に誇張しないでくださいサチちゃん!』

 マルベリーさんは羽をバサバサと揺らして怒っている感じを示す。
 まあ、どうせすぐにちゃんとした体でまた会えるだろうし、ミルには実際に見てもらった方が早いよね。
 と、そんな話をしてから思い出す。

「そういえばマルベリーさんの処遇についてはどうなったの? 咎人の森に張られてる結界とか、解いてもらえることになったのかな?」

『ミストラルの頭領、アリメント・アリュメットから正式に自白が取れましたので、じきに結界魔法が解かれるそうですよ。まあ色々と政府側で揉めたみたいですけど、そこはヴェルジュ・ギャランさんが手を回して融通を利かせてくれたみたいです』

 おぉ、それならよかった。
 にしてもやっぱり、まだ魔導師を危険視する人は少なからずいるのか。
 まあおそらくシャン派の人間が反対したんじゃないかなって思うけど。
 ヴェルジュさんのみでなく、魔導師マルベリーまで正式に国家魔術師として戻って来たら、より術師序列が危ぶまれることになる。
 下手をしたら二人に抜かれて、術師序列三位という威厳も何もない状況になってしまうのだ。
 そうなればますます王位継承の話が危うくなるから、シャン派が不満げな反応を示したってところじゃないかな。
 しかしそれらの些細な抵抗も、ヴェルジュさんによって押し潰されたらしい。
 結果、少しでも早くマルベリーさんが咎人の森から解放されるよう、手を回してくれるとのことだ。

「これでようやく、マルベリーさんは自由になれるんだね。本当によかった」

 その嬉しさがじわじわと込み上げてくる。
 まるで自分のことのように喜びを噛み締めていると、マルベリーさんが感慨深そうに言った。

『それもこれも全部、サチちゃんのおかげです。ずっと出られないと思っていたあの牢獄から出してくれたのは、他でもないあなたなんですよ』

「いや、私はそんなに大したことは……」

 マルベリーさんへの恩返しをするために、咎人の森から解放してあげたいと思った。
 それ自体は叶えることができたけど、なんだか自分の想像していた形とは少し違う気がする。
 結局色々な人の力を借りて成し遂げたから、あまり自分が助けたという実感はないんだよね。
 しかしマルベリーさんは、そうは思っていないようだ。

『サチちゃんは自分で語っていたことを実現させたんですよ。世界最強の魔術師になって、みんなを説得する。誰にも止められなかった魔獣侵攻を見事終わらせて、その実力を示すことができたから、みんなに信じてもらうことができたんです』

「……」

 世界最強の魔術師。
 今にして思うと、我ながら大それたことを言ってしまったものだ。
 定義も曖昧だし、それほどすごい魔術師になれたという感じもしないし。
 それでもみんなに実力を認めてもらえたのは確かで、そのおかげで私の言葉を信じてもらえた。

『世界で一番強い魔術師になれば、さすがにみんなも私の声を無視できなくなる。それできっと最強の魔術師の言うことなら間違いないって思ってくれるはずだよ』

 私は、あの時マルベリーさんに語った夢を、実現させることができたんだ。
 マルベリーさんは改まった様子で体の正面を向けてくる。
 瞬間、ぼんやりとマルベリーさんの姿がフクロウの背後に映って、その彼女が満面の笑みを浮かべた気がした。

『私のことを助けてくれて、本当にありがとうございます、サチちゃん。あなたは私の、世界でたった一人の自慢の弟子です』

「……えへへっ」

 改めてそんなことを言われるとさすがに恥ずかしいなぁ。
 でも、マルベリーさんの喜ぶ姿が見られてよかったと思う。
 次いで私は、照れ隠しをするようにあることを提案した。

「じゃあ後は咎人の森の結界が解けるまで待ってるだけだね。それまで町にいて、私たちと一緒にどっか遊びに行こうよ」

『いいえ、そろそろホゥホゥさんに体をお返ししなければなりませんから。もう随分と長いこと、この体をお借りしていますし』

「サチさんが無事に目を覚ますのを見届けたら、元の肉体に戻らせてもらうってずっと言ってたんですよ」

 なんだ、そうだったのか。
 まあ話に聞く限り、今はホゥホゥさんから肉体の主導権を譲ってもらっている状態らしいからね。
 確かに長居は無用だろう。ホゥホゥさんにも用事があるだろうし。
 そこで私は遅まきながら、ずっと疑問に思っていたことを尋ねた。

「そういえばずっと聞きたかったんだけど、どうしてホゥホゥさんの体を借りてまで町に来てたの?」

『い、いやまあ、それはその……』

 マルベリーさんは恥ずかしがるように視線を泳がせる。
 その様子を見て、私は天啓を授かるかのごとく悟った。

「なになにー? もしかしてマルベリーさん寂しかったのぉ?」

『うっ……』

 図星、と言わんばかりの強張った表情。
 前にも似たようなやり取りがあったなと密かに思う。
 けど今はミルも見ていて、クスッと静かに微笑んでいた。
 ていうかマルベリーさんがわざわざ脱走を試みる理由なんて、それくらいしか思いつかないからね。
 するとマルベリーさんは拗ねたようにそっぽを向いた。

『夏休みに帰って来なかった親不孝なサチちゃんが、学園でどういう生活を送っているのか気になりましたので。星華祭の見学ついでに見に来たまでのことですよ』

「そ、それについては手紙で謝ったじゃん! 私も夏休みは色々と忙しかったんだよぉ」

 まあ、ようは授業参観ってことね。
 夏休みに帰省しなかったから、今の私の状況が気になって見学に来たと。
 魂だけって言っても、森から脱走する形になってどんな罰則を受けるかもわからないってのに、よくやるなぁ。

「えっ? ていうことは、マルベリーさんずっと私のこと見てたってこと?」

『授業風景などは見学できませんでしたけど、星華祭の開催には間に合いましたので。二日目の途中辺りから活躍を見させてもらっていましたよ』

「……見てたなら、声かけてくれたらよかったのに」

 恥ずかしいような嬉しいような、なんとも言えない気持ちになる。
 これが授業参観で親が見に来る感覚なのか。
 そんな話をしていると、不意に保健室の扉が開かれた。
 いったい誰が来たのだろうと目を向けると、そこには……

「おぉ、サチ。目ぇ覚ましたのか」

「あっ、ポム先生」

 一本に結んだ真っ赤な長髪と白衣が特徴的な、保健室の先生であるポム先生がいた。
 用事で出払っていると聞いたが、今帰って来たらしい。
 するとポム先生は、私の顔を見るや盛大なため息を吐き出した。

「ったくよ、町を救った英雄様がこんなとこで寝やがって、面白半分で見に来る連中が多くて追っ払うのも一苦労なんだぞ」

「な、なんかすみません」

 自分の知らないところで先生に迷惑をかけてしまっていたみたいで申し訳がない。
 まあ、ポム先生くらい迫力がある人なら、簡単に追い払えただろうけど。

「まあ、んなこと今はいいとして、一つ知らせを持って来てやったぞ」

「知らせ?」

 いったいなんだろうとミルとマルベリーさんも首を傾げる。
 どうやらポム先生はその知らせを受け取るために、外に出払っていたようだ。

「魔導師が幽閉されてるっていう森の結界、ついさっき正式に解かれたらしい。っつーことを、国家魔術師の連中が学園まで伝えに来たんだ。代わりに魔導師に言っといてくれってな」

「……」

 森の結界が、正式に解かれた。
 私は思わずマルベリーさんと顔を見合わせる。
 これでもう、マルベリーさんを縛り付けるものは何も無くなったということだ。
 マルベリーさんは、ようやくあの咎人の森から、外の世界に出ることができる。
 その嬉しさを噛み締めながら、私は自分の体を見下ろしてマルベリーさんに伝えた。

「ごめん、お出迎えはできそうにないや」

『いいですよ。安静にして待っていてください。それまでサチちゃんのこと、どうかよろしくお願いしますね、ミルちゃん』

「はい、任せてください!」

 本当なら今すぐにマルベリーさんのところに転移して、咎人の森から出るところを見届けてあげたかったけど。
 この疲れ切った体では仕方がない。
 私はゆっくりと、マルベリーさんのことを待つとしよう。

『それじゃあサチちゃん、私は帰りますね。それでまたすぐに、この町でお会いしましょう』

「……うん」

 少しの間の別れ。それが今はとても寂しく感じる。
 マルベリーさんも同じ気持ちなのか、名残惜しそうな顔でこちらを見つめていた。

「……ねえ、マルベリーさん」

『……?』

 そして私は、マルベリーさんの意識が帰ってしまう直前に……

 密かに気になっていたことを、今さらになって問いかけた。



――――



 ゆっくりと目を開けると、そこは見慣れた家の中だった。
 サチとの思い出が一杯に詰まった森の家。
 無事に元の肉体に戻れたことに、マルベリーは安堵する。
 自分の魂が不在の間、仮の魂に生活を任せていたが、そちらも問題はなかったようで体調は良好だった。
 先ほどまでの騒がしさから一転、唐突な静けさに包まれたため、マルベリーは寂しさを胸に抱く。

 それからやや遅れて、咎人の森の結界が解かれたのだと思い出した。
 マルベリーは思わず羽を動かすように腕を構えてしまうが、今はフクロウの姿ではなかったと恥ずかしさを味わう。
 久しく自分の足を動かして家を飛び出すと、そのまま森の出口に向けて一直線に走って行った。
 遭遇する魔獣たちを魔法で倒しながら、見慣れた森を一気に駆け抜ける。
 やがて辿り着いたのは、口を開けるように佇む木々に挟まれた森の出口。
 ここにはいつもなら、国家魔術師たちによって張られた不可視の結界がある。

「……」

 マルベリーは恐る恐る手を伸ばす。
 薄暗い森の中から、光が差す外の世界へ指先を伸ばす。
 すると、マルベリーの指先は何にも阻まれることなく、外の空気と暖かい日差しに触れることができた。
 結界が張られていた時は、森と外の境界でそれが作動して、軽く体を弾かれていたのに。

「本当に、結界が……」

 今度はゆっくりと足も出す。
 外の世界の地面をぐっと強く踏みしめる。
 そこでようやく、自分が自由の身になれたのだとマルベリーは自覚した。
 もう、森に囚われることはないんだ。
 人のいる町に立ち入ってもいいんだ。
 これ以上寂しい思いをすることも、もうなくなったんだ。
 それもこれもすべて、あの幸運の少女サチのおかげ。

『咎人の森から出られたら、まず最初に何がしたい?』

 元の肉体に帰って来る直前、サチから問いかけられたこと。
 その答えは、ずっと前から決まっていて、マルベリーは涙を流しながら呟いた。

「あなたに会って、力一杯抱きしめたいです……!」

 魔導師マルベリー・マルムラードは、転移魔法を使うことも忘れて……

 愛する家族が待つ町に向けて、懸命に走り出した。