けれど、日照りはまだ続き、とうとう干ばつが起こり始めた。

「殿様。これはもう、生贄を捧げなくては、いけないのでは?」

村の一人が、お父様に迫った。

「生贄とは、一人の命を水神様に捧げる事だ。無理な殺生は、水神様も……」

「それで、干ばつがもっと広がって、今年の稲が取れなくなったら、来年俺達は、どうやって暮らしていくよ。」

重い空気が流れる。

戸の裏で聞いている私の方が、ハラハラした。


「……分かった。生贄を出そう。」

お父さんの一声で、水神様の池に、生贄を捧げる事が決まった。

「誰にする?」

「村の中で18歳頃の女で、嫁に出せるのは、ときしかいねえ。」

とき!? 私は思わず立ち上がってしまった。

そんな!ときが生贄に!?

村人の中には、ときのお父さんの姿もあった。

「仕方あるまい。時には、水神様に嫁いで貰う。」

ときのお父さんは、涙を浮かべていた。


その日の夜だった。

私の部屋の戸を、激しく叩く音がした。