が、クロの様子(・・)がおかしい。

四つ足はその場から踏み出すことも後ずさることもせず、小刻みに震えている。それなのに、その“頭部”のみがどんどん肥大していった。

黒い体毛で小さな寝室が埋め尽くされる。
クロが大きく口を開けると、口内の赤い色が蝋燭の灯りに照らされた。
その口のすぐ下にいるのは、

「…………え?」

予期せぬ光景に、呆気に取られる忠光様。

そうして、パクンと大きな音がして、私の主人はその大きな犬の首に丸呑みにされてしまった。


急に静寂に包まれる。私の心臓の音だけが、どくんどくんと響く。
恐怖から?それもある。けど、なぜだろう。

その恐ろしい犬の首には、確かに見覚えがあった。

ひとつ瞬きをすると、クロは元のただの犬の姿に戻っていた。
忠光様を飲み込んだことなどなかったことのように。しかしクロの体には、刀が深く深く突き刺さったまま。

「………っ。」

私は慌てて駆け寄ると、弱々しく耳を垂らした血塗れのクロの、肩の辺りに突き刺さった刀を握る。

「キュウン!」

クロが悲痛な呻き声を上げる。

「…ごめん、ごめん。我慢して…。」

なんでこんなことになったんだろう。私は涙をぼろぼろ流しながら、手を震わせながら、刀をゆっくりゆっくり引き抜く。
クロはなおも小さく呻きながらも、私から離れようとはしなかった。


相当時間をかけクロの体から刀を取り除き、視界から追い出したくて部屋の隅へと、刀を放り投げる。

「………クロ…!」

私はクロの首に頬を寄せた。
私のせいだ。私のせいでこんな体になって。罪悪感に押しつぶされそうなのに、

「……ありがとう、クロ、助けてくれたのよね……。」

こんな形で私の呪縛から救い出してくれるなんて、思ってもみなかった。

「…クロ…、クロ、ごめんね。
私やっぱり、あんたしかいないわ…。
あんたが一番大事なの…だから、死なないで……。」

夥しい血。早く手当てしないと。
声が震えるし、脚もがくがくする。それでも大事なクロをなんとか助けたくて、私はなんとか立ち上がる。