どこかすっきりした気持ちで、元来た道を同じように歩いていると、ふいに九郎が話しかけてきた。
「フヨさん、僕の願い事は何だと思います?」
「え?」
さっき嬉しそうに拝んでいた時の話か。
ただでさえ素性の分からない人だから、願い事なんて想像もつかない。怖い内容じゃないといいな…と願いながら、私は首を横に振った。
「フヨさんと夫婦になれますように、とお願いしました。」
「…………は?」
たった今聞いた言葉を、すぐには理解出来なかった。
なんだって?夫婦?旦那と嫁?誰が?
「…え、私と、あんたが?」
「ええ!フヨさんと僕です!」
九郎はこの上なく嬉しそうな笑顔を浮かべて、私の手を握ってくる。
対する私はみるみる顔が青ざめて、鈍りかけていた奴への警戒心が激流のように押し寄せてくるのを感じた。
「い、い、い、意味が分からない!!」
気味悪い!逃げなきゃ!
思うが早いか、私は九郎の手を振り払い、山道を一目散に駆け出した。