「…九郎、さんは、」

沢の冷たさのおかげでちょっと気持ちが穏やかになった私は、隣の男のことを少し探りたいと思った。怪しい奴かも、人間ならざる奴かも、今は何も分からない。それがなんだかスッキリしなくて。

「“九郎”でいいです。」

「………。
九郎は、どうして私に付いて来るの?
何か目的があるの?」

九郎は少し考える素振りを見せる。
言葉を選んでいるみたい。

「目的があるとするなら、僕はただ貴女を守りたいから一緒にいるんです。」

考えた末の言葉は、到底私が納得できるものではなかったけど。

「…そりゃ確かにお地蔵さんにお願いしたけど。でもそれだけってことはないでしょう…?」

「アラ、理由なんて必要ないんですよ。
僕は見返りを求めません。ただフヨさんの足の向くまま、僕をお供させてくれればそれでいいんです。簡単でしょ?」

「…………。」

それが不可解なのに…。
でも、まあ、幽霊は自分の都合で人に取り憑くというし、彼も同じような理由なのかもしれない。

それに私自身、せっかく屋敷から出られる貴重な休暇に、モヤモヤと悩み続けるのは不本意だ。今のところ彼から危害を加えられる気配もないため、これ以上の追求は諦めた。