その問いかけを聞いた時、私は胸の辺りがざわつくのを覚えた。
こんなにずけずけと人の事情に踏み込もうとしてくるなんて、失礼な奴!私はバッと振り返り、男のにこやかな顔を睨みつけた。

「もう付いて来ないで!
何が目的か知らないけど、私あんたのこと嫌い(・・)なのよ!」

九郎はちょっと驚いた顔をする。
予想してなかったんだろう。怒鳴られるとは。

もしかすると逆に怒らせる結果になるかもしれないけど、構わない。早くどこかへ行ってほしい。
一人にしてほしい。

でも、

「僕はフヨさんを好き(・・)なので構います。」

九郎は引き下がらなかった。
すぐににこやかな笑顔に戻り、私のことを見つめ返してくる。


「……はぁっ?」

不覚にも、今度は私が驚かされる番だった。
好きって、なんで?今日会ったばかりの娘に普通そんなこと言う?
怒ったりするのが普通じゃない?

でも残念なことに目の前の男は“普通”じゃない。
私が何を言ったって、どれだけ歩いたって、九郎は表情を崩すことなく後を付け回すし、気の向くままに喋りかけてくるんだろう。

そう考えると、噛み付くために体力を使うのも無駄に思えた。
私は心の中で振り上げた拳を下ろし、元のように森の中を進み始める。

「ふふっ♪」

その後ろからは、相も変わらずご機嫌そうな九郎が付いて来るのだった。