さて、しばらくすると身柄の移送を終えた騎士団が画商店に戻ってきたのをきっかけに、
絵画目的にやってきた貴族たちは皆引き上げていった。

大きな騒ぎになってしまったため、僕もそれに合わせてギルドハウスに戻ろうかと思っていたとき。

「フリーク、ちょっと付き合ってくださいよ」

騎士団の人々が偽物の絵や荷物を画商店から運び出していくなか、ボレアスは騎士団に後は任せると言って僕を近くの酒場へとつれて行った。

そこは昔よく二人で飲みに行った、ギルドとは違う小さなバーだった。
セレナやメルトラには言えないようなちょっとエッチな話とかをするときにミノスと三人でよく利用したのを思い出す。



「え、えと……久しぶりだねボレアス。さっきはありがとう」

あの時に比べて、今ではすっかり会話の滑り出しもぎこちなくなってしまったが。
ボレアスは特に気にする様子もなく話をしてくれた。

「礼を言うのはこっちですっての。あの豚のおっさん、王族相手にも偽物の絵を売りつける太々しい野郎でね、末端の貴族とかの被害が相当だったんですよぉ。そのくせ悪知恵が働く奴で捜査じゃ全然尻尾掴めねーし、結局あいつ主催のオークション片っ端から見て回って偽物売りつけてるときに現行犯逮捕しようと狙ってたわけなんですがね。田舎育ちの村男の俺にゃ絵の真贋なんてわかりっこねーって話ですよ。そんで、困ってたところにフリーク、お前が絵が偽物だって証言してくれたってわけ。いや本当、感謝感謝‼︎」

「そう、だったんだ。助けになれてよかったよ」

昔のように笑いながらボレアスは僕のグラスに蜂蜜酒を注いでくる。

……追放された時と全然違う。
なんだか、前に戻ったみたいで……どう言うことなんだろう?

疑問に思いながらボレアスの言葉に相槌を打ちながら様子を伺っていると。

「あ、すんませんね。俺の話ばっかりで。フリークはどうしてたんです? その……俺たちと別れてから……元気にしてたんですかい? まぁその身なりみりゃ、大成功ってのはわかるんですけどね」

「うん……すっごい辛かったけれど、助けてくれた人もいるし……僕の自分でも知らなかった凄いところを見つけてくれて、僕を相棒って言ってくれる人ができたから。その人のおかげで、僕は今一番輝いてるかも」

ボレアスの質問にたいし、僕は特に隠すことなく正直に答える。
その言葉にボレアスは初め驚いたような表情を見せたけれど。

「……そっか」

優しい表情でそう笑った。

「……そ、そういえばみんなは元気?」

「ん……あ、あぁ。まぁ元気ですよ。 俺は見ての通りだし、ミノスはやりたいことがあるってどっか行っちゃいましたけどたまに連絡が来やがります。メルトラの奴は魔導研究所で研究を続けてやがりますし……」

「セレナは?」

「セレナ? あー、セレナはその……元気ですよ? あっちこっち駆り出されて忙しそうですけどね」

「そっか……よかった」

「何だフリーク……もしかしてお前まだセレナのこと好きなの?」

「ぶっふぅう‼︎?」

「図星ですかい」

図星だった。

「い、いいいいいやいやいやいやセレナは確かに可愛いけど僕は追放されたしあっちはなんとも思ってなかったと思うしだから恥ずかしいからそのえとあのこのそのあわわ」

「っははは。悪い悪い……しっかし追放した相手がまだ好きとか。随分とまぁオタクも一途なもんですねぇ。あんたほどの金持ちだ、女なんていくらでも寄ってきますよ?」

カラカラと笑いながらボレアスは僕の吹き出した酒をハンカチで拭う。

「う、うるさいな。 馬鹿だって思うなら思ってればいいさ」

「いんや……逆に安心したよ」

「?」

ボレアスは何故かそんな僕の様子を嬉しそうに見て笑い。

金貨を数枚机の上に置くと、そのまま立ち上がる。

「さて、と。 あんまりサボってるとこわ〜いリーダーにお小言をもらっちまうからな。そろそろお暇させてもらうぜフリーク……今日は本当に助かった」

「もう行くの?」

「あぁ。久しぶりにお前にも会えたましたしね」

「僕を追放しなかったら、毎日会えてたはずなんだけれどね」

酒のせいか、ついついボレアスに対して皮肉が口をついてでる。
怒るかとも思ったが、ボレアスはどこか寂しそうに笑うと。

「そうだな……恨んでくれて構わないですよ。お前を追放したのも手前勝手な理由ですからね……手前勝手ついでにもう一つ言うなら……まぁ、出来るだけ早く、俺たちの事は忘れてくれませんかね」

「……本当、手前勝手だね。 だけど忘れないよ……なんだかんだ言って僕、やっぱり君たちのこと嫌いになれないみたいだから」

「そっか……その言葉が一番効きますよ……フリーク」

それだけ言い残すと、ボレアスは僕を残して店を出た。

「嘘つき」

そう呟いて、僕は店で一番強いお酒を注文して、酒場で一夜を過ごした。

それでも渡されたお金は随分と余ったのだった。