さっきの会話が頭に残っていたからか、夏菜は新作の抹茶味のアイスを2つ買っていた。
 家に帰ったら食べて、感想を哉斗に送ろう。そう思っていたのに、今の夏菜はそう思った事を後悔していた。
 買い物の途中で捻挫の痛みが酷くなり、一歩も動けなくなったからだ。
 スーパーから家への帰り道にある公園のベンチに座って、足の痛みをこらえる。
(アイス、溶けちゃうな……)
 買った食材の中で一番、アイスが気がかりだった。
 でも一人で、こんな所で食べる気にもなれない。それは何だか寂しいから。
 家に帰りクーラーの効いた部屋で、いつものように哉斗とメッセージを送り合いながら食べたかった。
 そうしたいつもの日常の中で、彼と共有したい味だったのだ。
 炎天下の中、空を見上げていられなくて足元に視線を落とす。
 今の、晴れすぎた青空は目に痛いから。
 あまりに暑い日だからか、夏休みだというのに公園には誰もいなかった。
 鳴く蝉の声が、より一層静けさを際立たせる。
 そんなはずはないのに、世界でたった一人になってしまった気がした。
(雨が、降ればいいのに)
 雨が降れば、全てを溶かしてくれる気がした。
 一人である今も、買ってしまったアイスも、食べて貰えないかもしれない夕飯も、曖昧な彼との関係も。
 膝に、水滴がぽつりと落ちた。雨なのか、汗なのか、涙なのかよく分からない。
 知りたくなくて夏菜が顔を上げずにいたその時、ふっと何かの影が落ちた。
「え……?」
 顔を上げて、泣きそうになった。
 そこにいたのは、哉斗だったから。
「良かった、ここにいた」
 乗っていた自転車から降りて、哉斗が額に浮かんだ汗を腕で拭う。探し回ってくれたのか、哉斗は汗だくだった。
「どうして……」
「昨日足、捻挫してたから。動けなくなってるんじゃないかって思ったんだよ」
 夏菜が、家を出ていると知っている口ぶりだった。
「なんで、私がここにいるって分かったの?」
「なんでって……先週、この時間になると買い出し行ってたし。さっきも途中で会話終わらせてたから」
 メッセージで会話をしている最中、夏菜は買い出しに行くなんて一言も言わなかった。もし「買い出しに行く」と言って、哉斗に何も言われなかったら――母親のように、捻挫を気にしなかったら、悲しかったから。