メッセージで話しながらだと、不思議と食事が美味しく感じられた。まるで教室で会話をしながら食べているような気分で、夏菜は朝ごはんを食べていく。
 やがて、朝食を食べ終えて夏休みの宿題に取り掛かる頃になっても、夏菜は哉斗と緩やかにメッセージのやり取りをしていた。
 この一週間、変わらずこうして毎日話しているのに、不思議と話題は途切れなかった。
 話しながら、夏菜は哉斗の顔を思い浮かべた。あまり普段、意識して彼の顔を見る事はない。だからか、印象に残っているのは初めて会った時の事だった。
 クラスの違う哉斗と出会ったのは、五月の初めにあった文化祭実行委員の集まりでだった。
 誰よりも最初に教室に来ていて、窓から新緑を一人眺めていたのが哉斗だったのだ。
「何見てるの?」と夏菜が聞けば、「別に何も」と笑って哉斗は答えた。それが彼との出会いだ。
 その後自己紹介で、全員下の名前で呼び合う事が決まって、彼と自分の名前が似ていると知った。
 ただそれだけだったのに、いつの間にか付き合っている。
 ――夏休みだけど、どこか遊びに行かなくていいのかな。
 そう打ちかけて、夏菜は指を止めた。何となくまだ早い気がして、送信ボタンを押さずに文面を削除する。
 別に、好きになって付きあったわけじゃなかった。かといって嫌いなわけでもない。
 でも――哉斗は、どう思っているんだろう。
「夏休みだね」「うん」「付き合ってる人いる?」「いないけど」「じゃあ俺とか、どう?」
 そんな風に、今の関係は始まった。
 だから彼の感情が『好き』なのかどうか分からなくて、及び腰になる。
 もう少し、踏み込みたい気もする。
 でも今のままも好きだった。
 こうしてメッセージで話して、同じ時間を過ごしていく。それで今は、十分だ。
 やがて、いつも食材を買い出しに行く時間になっていた。
 買い出しは一週間に二回。予備校がない水曜日と土曜日の昼間、タイムセールの時間だ。
 さっき朝食を作った時に卵も野菜も使い切ってしまったから、買い出しに行かないといけない。
 席を立つと、忘れていた痛みが足首に走った。
 座っていると平気だけれど、こうして立つとやっぱり痛い。
 確か湿布は、洗面所の棚に前に使った残りがあったはずだ。湿布を貼れば大丈夫だと言い聞かせて、夏菜は買い出しの準備に取り掛かった。