修学旅行や、学校行事でお願いする事は出来ても、ただの捻挫ではどうしても言いづらかった。
 やっぱり家にある湿布で誤魔化そうと思いながら夏菜が食事を作っていると、寝室の扉が開いて疲れた様子の母親が出て来た。
「おはよう、お母さん」
「おはよー。疲れたー」
「昨日は何時に寝たの?」
「三時。……四時間しか寝てないー無理、疲れた」
 まるで学校の友人のように駄々をこねながら、母親は這うように洗面所へ行って顔を洗い、かけてあったスーツを手にとった。
 ため息をつきながら身支度を調え、夏菜が片手で食べられるようにと置いておいたおにぎりを一つ手に取って頬張る。
「んー、やっぱ夏菜のご飯が一番だわ」
「お味噌汁もあるよ」
「ごめん座って食べてる暇ないわ! でも今日は二十二時には帰れそうだから。夕飯お願いねーよろしく!」
 それだけ言って、あっという間に母親は家を出ていってしまった。
 起きてからものの十分ほどだった。
 嵐のように出ていった母親に、夏菜は遅れて「いってらっしゃい」と声をかける。足の捻挫に気づいた素振りも無かった。
「……今日は、おにぎり食べて貰えたし」
 いつもよりはきっとマシだ。そう思いながら、自分の朝ごはんを食べようと気持ちを切り替える。
 作った味噌汁をよそう為にキッチンに戻った時、また足首に鋭い痛みが走った。やっぱり、あまり良くない捻り方をしたようだ。
 何とか足に負担がかからないように歩きながら、朝食を食卓へ運ぶ。
 椅子に座り、一人で手を合わせる。
「いただきます」
 今朝の朝ごはんは自信の出来だった。一人満足しつつ、ご飯を口に運ぶ。その時、スマホにメッセージが届く音がした。
 この時間は多分、哉斗だ。
 毎日、哉斗は決まった時間に連絡をくれていた。スマホを見ると、案の定哉斗だった。
 ――朗報。モウ新作、抹茶味。
 そう書かれている文章の下に、URLが貼られる。新作のアイスの話題だった。
 ――抹茶、好きなの?
 聞くと、速攻でうなずくスタンプが貼られる。
 ――抹茶とほうじ茶、最高。
 ――意外と渋いんだ。
 ――夏菜は、どんな味が好き?
 ――私は、チョコレート。
 そこからひとしきり、夏菜と哉斗はアイスの話で盛り上がった。