「どうしたの?」
「それがさー。お母さんハンバーグ作りすぎちゃったんだって。どうする? 夏菜、今日うちくる?」
その友人は、夏菜の母が忙しく滅多に家にいない事をよく知っていた。彼女の母親もだ。だから、作りすぎたなんて口実を作って夏菜を誘ってくれたのだろう。
気遣いが分かったから、夏菜はうなずいた。
「いいの? 大丈夫なら行きたい」
「またハンバーグだけど」
そう言って、友人は笑った。呆れたような、小馬鹿にするような表情で。
「てかうちのママ、夏菜呼ぶ時はいっつもハンバーグだよね。ワンパターンでほんとごめん」
自虐めいた声が、耳に痛かった。
でも、お母さんが作ってくれたご飯だよ、という言葉を飲み込んで夏菜も曖昧に笑う。彼女にとってはワンパターンでも、彼女の母が手間をかけて作ったご飯。夏菜が望んでも、手に入らないものだ。
「多分前に、私がハンバーグ好きって言ったからだよ」
「優しいなー夏菜は。じゃー連れて帰るって言っとく」
友人は、またハンバーグである事への文句を交えながら、母親に返事を打っていた。
すぐに既読になり、『夏菜ちゃんに会えるのが楽しみ』だという返事が友人のスマホに浮かぶ。
母親と遠慮ない会話が出来る友人が、少し羨ましかった。
(……痛い)
翌朝は、最悪の目覚めだった。昨日捻った所が、悪化していたのだ。
昨晩は、約束どおりに友人の家で食事をご馳走になってから家に帰って来た。その時間にはもう医者もやっていなかったし、そこまで大した事ではないだろうと考え、そのまま寝てしまったのだ。
でも、痛かった。ズキズキと痛む足首に手を当てつつキッチンへ行くと、夏菜はいつものように朝ごはんの支度に取り掛かった。玄関には靴がまだ残っている。母親は、家にいるらしい。
ギリギリまで寝ている母親の事を考えて、夏菜はまずおにぎり作りに取り掛かった。
これなら朝忙しくても、食べられるかもしれない。家で食べられなくても、持って行けるはずだ。
痛む足を引きずって、予約で炊いたご飯でおにぎりを作り始める。
今日、夏期講習はなかった。だから朝食を食べ終えたら、病院に行った方がいいかもしれない。
(でも、医者に行っても湿布だされるだけかもしれないし……)
そもそも、治療費の相談を母親にはしづらかった。会話の時間は取れないし、メッセージもろくに既読にならない。
「それがさー。お母さんハンバーグ作りすぎちゃったんだって。どうする? 夏菜、今日うちくる?」
その友人は、夏菜の母が忙しく滅多に家にいない事をよく知っていた。彼女の母親もだ。だから、作りすぎたなんて口実を作って夏菜を誘ってくれたのだろう。
気遣いが分かったから、夏菜はうなずいた。
「いいの? 大丈夫なら行きたい」
「またハンバーグだけど」
そう言って、友人は笑った。呆れたような、小馬鹿にするような表情で。
「てかうちのママ、夏菜呼ぶ時はいっつもハンバーグだよね。ワンパターンでほんとごめん」
自虐めいた声が、耳に痛かった。
でも、お母さんが作ってくれたご飯だよ、という言葉を飲み込んで夏菜も曖昧に笑う。彼女にとってはワンパターンでも、彼女の母が手間をかけて作ったご飯。夏菜が望んでも、手に入らないものだ。
「多分前に、私がハンバーグ好きって言ったからだよ」
「優しいなー夏菜は。じゃー連れて帰るって言っとく」
友人は、またハンバーグである事への文句を交えながら、母親に返事を打っていた。
すぐに既読になり、『夏菜ちゃんに会えるのが楽しみ』だという返事が友人のスマホに浮かぶ。
母親と遠慮ない会話が出来る友人が、少し羨ましかった。
(……痛い)
翌朝は、最悪の目覚めだった。昨日捻った所が、悪化していたのだ。
昨晩は、約束どおりに友人の家で食事をご馳走になってから家に帰って来た。その時間にはもう医者もやっていなかったし、そこまで大した事ではないだろうと考え、そのまま寝てしまったのだ。
でも、痛かった。ズキズキと痛む足首に手を当てつつキッチンへ行くと、夏菜はいつものように朝ごはんの支度に取り掛かった。玄関には靴がまだ残っている。母親は、家にいるらしい。
ギリギリまで寝ている母親の事を考えて、夏菜はまずおにぎり作りに取り掛かった。
これなら朝忙しくても、食べられるかもしれない。家で食べられなくても、持って行けるはずだ。
痛む足を引きずって、予約で炊いたご飯でおにぎりを作り始める。
今日、夏期講習はなかった。だから朝食を食べ終えたら、病院に行った方がいいかもしれない。
(でも、医者に行っても湿布だされるだけかもしれないし……)
そもそも、治療費の相談を母親にはしづらかった。会話の時間は取れないし、メッセージもろくに既読にならない。