――ほらあいつ、実行委員の中でも浮いてたから。
 ――だから抜かしたんだ。
 教室の中に、仄暗い忍び笑いが広がっていく。
 確かに、グループLINEに入れていなかった彼は浮いている所があった。
 でもかといって、わざと抜かしたりはしない。
 そう言いたい気持ちをこらえて、哉斗は黙った。
 言った所で信じて貰えない。自分が、連絡ミスをしたのは事実なのだ。
 それでも違うと言いたくて――でも言えずに押し黙った哉斗の代わりに反論したのは、夏菜だった。
「そんな事、哉斗君はしないと思う。前に深谷君がはぐれた時にも、わざわざ探しに行ってたし」
 深谷というのが、今回連絡の行っていない男子の名前だった。
「はぐれた? 何の話?」
「前にみんなで服を見に行った時、途中で深谷君がいなくなってたの気づいて無かった?」
 夏菜は、物怖じせずに続けた。
「あの時、哉斗君が一人抜けて深谷君を探しに行ってくれたんだよ。最後、スタバに行った時は全員いたから気づかなかったかもしれないけど」
 ――知らなかった。
 ――そんな事あったの。
 戸惑いの声が上がる中で、夏菜は毅然と言った。
「だから、哉斗君は誰かをハブったりしないと思う。ただのミスだよ」

 不規則な蝉の声が、聞こえていた。
 手にしたままの食べかけのアイスが、溶けている。
 哉斗は、食べ終わったアイスのカップを置いて空を仰ぎ見た。
「あの時びっくりしたんだよ。気づいてる人がいると思ってなかったから」
 懐かしむように目を細めながら哉斗は空を見上げていた。鮮やかな、透き通る夏の青を。
「見てくれる人がいたんだ、って思ってさ。……だから、嬉しかったし、俺もそういう人間になりたいって思った。夏菜みたいに、きちんと人のこと見られる人になりたいってさ」
 だから、と言葉を切って哉斗は夏菜を見た。
「夏菜だけが気づいてくれたから。だから……付き合いたかった」
 葉の生い茂る夏の木々を揺らす風が、哉斗と夏菜の髪を揺らしていく。
 入道雲が、見ている。
 ――同じだ、と夏菜は思った。
 哉斗だけが、気づいてくれたと思っていた。
 でも哉斗は言う。夏菜だけが気づいていたと。
「ほんとはさ、あの時ちゃんと言えば良かったとずっと後悔してたんだ。フラれるのが怖くて、逃げた言い方したから」
『じゃあ俺とか、どう?』
 冗談めかした哉斗の声を覚えている。