足を捻った時も。
 黙って買い出しに出かけた時も。
 どうして、と疑問が浮かんだ。どうしてそこまで、気づいてくれるんだろう。
 何故か泣きそうになって、夏菜はそれを誤魔化す為に口を開いた。
「ねえ、哉斗。なんで、来てくれたの?」
 言いながら、夏菜は違うと思った。本当に聞きたかったのは、自分と付き合った理由だ。
「どうして、いつも気づいてくれるの?」
 どうして哉斗は気づいて欲しい事が分かるのか、分からなかった。わざわざ、この暑い中探しに来てくれた理由も。
 ――ただ、たまたま一緒にいたから付き合ったんだよね。
 その言葉を飲み込んで、哉斗の返事を待つ。
 哉斗は、返事を探すように黙っていた。
 沈黙の中に、蝉の声だけが響いている。
「五月にさ」
 不意に、哉斗は口を開いた。
「夏菜が言ってくれたじゃん。『哉斗は誰かをハブるような人じゃない』って」
「それ……グループLINE作った時の?」
 哉斗の言葉に思い出す事があった。
 以前、哉斗が文化祭実行委員の中で、買い出し班のグループLINEを作った時のことだ。

 買い出し班のリーダーであった哉斗はあの時、話し合いの為に新規のグループを作っていた。
 けれどその時、一人の男子を呼びそびれたのだ。買い出し班のメンバーは十五人もいるせいで純粋に抜けてしまったのだろう。
 早めに気づければ良かった。でも判明したのは、買い出しに行く直前だったのだ。
「今日買い出しだって言ってたじゃん」
「予備校ってどういう事?」
 いつもの文化祭実行委員の集まりの後、いざ買い出しに出かけようとした時に行けないと告げたその男子に、非難が殺到する。
 そこで哉斗はLINEグループを確認し、彼が抜けていると気づいた。
 彼はグループLINEでのやり取りを知らない。だから情報が共有出来ておらず、別の予定を入れてしまった。――自分の責任だ。
「ごめん、それ俺の連絡ミスだ」
 慌てて割って入った哉斗は、正直に自分がグループLINEに誘いそびれていたと告げた。
 それで話は終わるはずだった。連絡ミスがあった事を謝罪して、改めてグループに誘う。
 けれどその時、どこからか声が上がった。
 ――わざとじゃないの。
 明らかに聞こえるように呟かれた声に、哉斗の顔色が変わった。
 それでも、ささやき声は消えなかった。