哉斗が何も言わなかったら、誰も自分の事を気にかけていないんじゃないと感じてしまう気がして、怖くて言えなかったのだ。
 だから「また後で」と会話を終わらせていた。
 けれどそれだけで哉斗は、気づいてくれた。先週と同じように買い出しに行っているんだろうと探しに来てくれたんだ。
「無駄になるかもしれなかったのに」
 もし、買い出しに行っていなかったら、どうするつもりだったのだろう。
 哉斗が探し回ってる間、家にいたかもしれない。探しても、会えなかったかもしれないのに。
 夏菜の言葉に、哉斗は苦笑を浮かべた。
「別に無駄になってもいいじゃん」
 何でもない事のように、哉斗は笑った。午後の太陽が眩しくて、視界が滲む。
「送ってくから。荷物貸して」
 買い出しの荷物を自転車のカゴに入れると哉斗が差し出された手に、夏菜はアイスを乗せた。買ったばかりの新作アイス。哉斗が好きな、抹茶味だ。
「アイス、溶けちゃうから」
 短く言って、夏菜は自分の分も買い物袋から取り出した。
「嘘、これモウ新作じゃん」
 ぱっと哉斗の顔に笑顔が浮かぶ。
「貰っていいの?」
「うん」
 哉斗は、夏菜と並ぶ形でベンチに座ると喜々として蓋を取った。
 付属のスプーンで抹茶アイスをすくって、大きな一口で食べる。
「うま!」
 心から美味しそうに、哉斗は食べていた。
 暑い中探しに来た不満も、捻挫で外へ出た夏菜へ腹を立てている様子もない。
 ただ純粋に探しにきてくれた。そして、傍にいてくれているのだ。
 夏菜も、スプーンですくって抹茶アイスを口に運んだ。普段、自分では絶対買わない抹茶味。苦いだろうと思っていたそれは、想像よりも甘くて美味しかった。
「ほんとだ、美味しい」
「だろ」
 夏菜の感想に、哉斗は嬉しそうに笑っていた。
 きっと、それぞれでアイスを食べてメッセージで感想を伝えあっても、出てくるのは同じ言葉だっただろう。
 けれど文字で見るのと、耳で聞くのとでは大きく違っていた。
 言葉にして感想を伝え合う。一緒のものを、同じ場所で食べ合う。それだけの事が、どれだけかけがえのない事か。
 食べ終わってしまうのがもったいなくて、夏菜は思わず手を止めて俯いた。
「夏菜?」
 急に黙り込んだ夏菜に、哉斗が怪訝そうな声を上げる。いつも、そうだ。
 哉斗は、すぐに気がつく。
 模試でいい結果が出た時も。