昔から小説を読むのが好きだから、もっと文学について学びたいから、文学部かなあとは思っている。けれど、学校で紹介される進路の決め方エピソードが、獣医になりたくて、とか、警察官になりたくて、とか、わたしの考えていたものとは遠くてしかたがない気がして。
こういう、何が好き、とか、とりあえず仕事にしたいわけではないけどもっと知りたい、とか、そういう考え方じゃだめなのかと腑に落とされるような。
美術部に入ったのは、そういう特殊なものが欲しかった、というのがきっかけだった。
いまでは絵を描くのが大好きだけれど、高校入学当時はそんなことは全然なくて、趣味も特技も将来の夢もとくになくて、趣味で読書というと真面目なひとのように思われるからなんとなくみんなの視線が集まる自己紹介では言いづらくて、だいぶうじうじしていたと思う。
だから、たまたま校内の廊下に掲示されている美術部のポスターに、『自由にやりたいことを表現しよう!』と書いてあったのを見たとき、ここに入れば、わたしらしい自由が、わたし特有の自由が、見つかるんじゃないか、って思ったんだ。
構図が好きなイラストレーターさんと似ているかな、みたいに不安になることはあれど、模写しているわけでもないからこれが好きなんだなと、わたしらしい好きを見つけることができるようになってきた。たぶん。
だから、成長はできてきているはずなんだけどな。
「でも大学で美術を学んでそのままそういう仕事につくのかっていうと覚悟が……、けど、文学も好きとはいえ仕事にするかはわからないなあ」
ぶつぶつとひとりごとをこぼしながら考えて、ちらりと時計を見る。
「……あっ、バイト!」
バイトに出ないとそろそろ間に合わなくなってしまう時間だった。急いで支度をし、家を出る。アルバイト。仕事。一生ものの仕事に、いましている飲食店の接客業は選ぼうと思わない。
楽しいけれど、そうでなくて──やっぱり、好きなことを仕事にしたいって思いはきっとあるんだろうな。
いまの店舗は高校生でも歓迎してくれるから申し込みをして採用してもらったけれど、生涯の仕事は、と思い始めると難しい。