わたしは、まわりのひとたちから美術部だから絵が上手いだろう、と、文化祭のポスターを描いて欲しい、と頼まれたとき、みんながわざわざわたしを選んでくれたし、なんて、やりたかった当日の案内キャストではなく、宣伝ポスターや内装で使うイラストをたくさん描く仕事にまわった。
それが去年の秋の話で、もう一年近くが経つというのにずっと後悔していた。せっかくの文化祭の楽しい思い出だったのに、ほんの少しあのときああしていたらと考えている感覚があるのが、さみしくて。
みんなから信頼のうえで頼まれて、喜んでもらえて、わたしも楽しく描けて、幸せは確実にあったはずなのに。
だから、綾くんが自分を持っていて、嫌、とか、後悔、とかをはかる基準として抱けているのがすごく格好よく感じられて、憧れの単語が彼のかたちをするようになった。
「引退っていうより無期限活動休止って言葉が近いと思う」
見ていたアーカイブから聞こえた綾くんの声で、じゃあやっぱり、今後がどうなるかわからないとはいえ、確実なのは8月いっぱいで配信はなくなることだけなんだ、とあらためて思う。
言いきれる綾くんを尊敬すると同時に、ほんとうにいなくなってしまうと実感して、心の奥底のほうがきゅう、となる心地がした。
シャープペンシルを持つ手が止まったまま動かせそうにない。
進路課題。
どこの大学、どの学科に、どうして行きたいのか。そこにいくために必要な勉強は。試験方法は。学費は。最寄り駅は。オープンキャンパスはいつか。
行きたい大学はなんとなく決まっている。でもなんとなくしか決まってきなくて、どうしてもそこに行きたいのかというと自分で自分に首をかしげてしまう。
だから、どうして行きたいのかがはっきりと言葉になってくれない。
必要な勉強も試験方法も学費も最寄り駅も、オープンキャンパスの予約も、すべてネットで調べてたら簡単なのに。
どうしたら大きな決断ができるんだろう。