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「先輩、この間の村、もう一回行く予定ありますか?」
「どうしたの。潜りたくなった?」
「いえ、それは遠慮します」
「残念。まあでも、行きたいならこれから行こうか」
「え、いいんですか?」
「いいよ。蔵の中見せてくれるっておじちゃんがいるから、近々行く予定だったし」


 ──湖底調査から1週間少々が経過したある日。

 あまり期待はせずに聞いてみたものの、思いのほか色よい返事があり、早速私は先輩とあの村を再訪することになった。


「僕は蔵見学をするけど、藤春はどうする?」
「私は――……少し湖に行ってきます。すぐ戻るので、その後は合流してもいいですか?」
「了解、いいよ」


 私は結局、彼女の綴った言葉を追い続けてしまった。

 結ばれることはないだろうと分かっていたけれど、それでも惹かれるのを止めることはついに叶わなかった彼女。

 彼とてそれは同じで、二人は寒空の下逢瀬を重ねる。

 ……しかし、夏になる前には街にある有力な商家の娘と彼の間に縁談が持ち上がり、双方の両親が承諾したことでそれは現実のものとなってしまった。