――こうなることは、分かっておりました。

 そんな言葉から始まる、日記とも手記とも、あるいは手紙のようにも思える紙の束。
 先輩から聞いた話で、“彼女”の置かれていた状況の想像に近い推測は推定へと変わった。


 ――出逢ったときから、惹かれるものがありました。

 ――ですが、同時に惹かれてはならないという思いも強くありました。

 ――仮に気持ちが通じ合ったとして、いつか必ず別れが来ることがあまりにも分かり切っていたからです。

 ――彼と私は、立場が違いすぎました。


 もう何度も目を通した紙は、さほど考える必要もなく現代語となって内容が入ってくる。

 名前も分からない“彼女”の文体は、諦めきっているようでいて諦めが悪いような不思議な感じがあって。
 史料的な価値がない以上、見知らぬ人のプライバシーに踏み込むような真似をするのは良くないと分かっているのに、切々とした言葉の先を知りたくなってしまう。

 そうしてこの数日、私は“彼女”の言葉を追い続けていた。