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「今日はこれくらいで引き揚げよう」

 数時間に渡って行われた調査。

 水深約7メートルの最深部でいくつか史料が見つかり、そこで一旦終了にすることになった。

 先輩を含め、引き揚げを行った面々は村の銭湯で温まってから帰路につく。

 調査に協力してくれた村の方にお礼を言ってから、今度は私の運転で大学まで向かった。


「予想以上に色々出てきたね。これから大忙しだ」

 大忙し、と言いつつほくほく顔の先輩に頷いて、今後のスケジュールを頭の中で組み立てる。

 私が得意としているのは紙史料の復元と解読。
 今回の調査でもいくつか出ているので、私にも任されるのは間違いないだろう。

 案の定、研究室に到着すると、先輩は私に冊子らしきものと箱を割り振った。

「藤春はこれ、お願い」
「分かりました」

 箱の中身は先輩が既に確認済みで、大量の紙の束と簪だという。

 作業室に入って私も箱を開けてみると、流れのほとんどない湖底にあったためか、ぼんやりとではあるが文字を見て取ることも出来るほどの保存状態だった。

 きちんと修復すれば、ほとんどすべての部分が読めるようになるだろう。

 冊子の方は、当然ではあるが箱の中身より損傷が激しいので、まずは簡単な方から取り掛かることにした。