私は高校生の時に彼と同じ図書委員になって縁が始まり、志望校や志望学部が同じだったことから意気投合して現在に至る。

 学習面では放置していてもなんら問題はないが、私生活の方では色々と無頓着すぎて危うい彼の保護者役を、教授やゼミ生一同から任されてもいた。

 お陰様でこうして朝っぱらから振り回されることも多いが、彼の行く先には面白いものもまた多く、私なりに楽しくやっている。


「それで、今回は何が出たんですか?」
「まだちゃんとは聞いてないけど、色々出そうな湖があるんだって。折角だから僕も潜ろうと思う」
「そうですか。頑張ってください」
「棒読みは酷いなぁ。修復どっさり任せるよ?」
「できる範囲内でお願いします……」


 私と先輩が籍を置いているのは、考古学部。

 その道では有名な教授の下で、知識を身に付けるだけでなく、発見された史料を復元したり、状態保存したり、解析したりといった実践も行っている。

 先輩は最近水中考古に最も関心があるようで、この1年は湖や海へ連れ出される回数が増えていた。今回もその例だ。


「どれくらいかかります?」
「2時間くらいかな。眠ければ寝てていいよ」
「大丈夫です。寝ると起きれなくなりそうなので」
「そう?」


 頷いて、先輩が買ってきてくれた眠気覚ましのブラックコーヒーへ手を伸ばした。


 車内は暖房が効いているから温かいけれど、外は息が白くなるほど寒い。これから向かうところがどこであれ、水中に入る先輩は随分と冷えそうだ。

 面白いものが見つかりそうなら、先輩が上がるころに温かいものを差し入れしよう。

 時折会話をしながら、先輩の好きなバンドの曲をBGMに車は進む。
 そうして彼の言っていた通り、約2時間後に私たちは目的地へ到着したのだった。