結局ここまでに2年かかってしまった。

最終的に二人が見つけた物件は、元は小さな住居兼食堂だったというこぢんまりとした建物だった。
家主は元々その食堂を営んでいたという女性であり、本人は息子夫婦が住む別の島に今は居住している。にも関わらず長年の習慣だからとちょくちょく手入れをしていたらしく、思った以上に中の状態は奇麗に維持されていた。
本人はもともと誰かに貸し出す気はなかったらしいのだが、不動産業者から話を聞いてダメもとで直接交渉に訪れた二人を彼女はなぜかとても気に入ってくれて、それからは話は驚くほどスムーズに進んだ。

元々食堂だったことから厨房周りの大きな改修をしなくてもよく、その分のコストが抑えられた点は非常に幸運だった。
一方でその分内装にこだわったことで工事が予想以上に手間取って、内装工事だけで3か月を要してしまった。保健所の審査を無事に通ったときは二人とも思わず胸を撫で下ろしていた。
それからも例えば食材の納入業者がなかなか決まらないという問題に直面する。
しかし、その助けは意外なところからやってきた。
彩夏が訪島した際の行きつけとなっていた居酒屋で、顔見知りの男性(あだ名は熊ちゃん)に酔った挙句に愚痴っていたところ、「なんなら彩夏ちゃん、俺から買うか?」と告げられたのだった。実は熊ちゃん、卸業も含めて手広く事業をやっており、そのまま協力を取り付けることができたのだった。

元々地元で親しまれていた食堂だったという事もあり、意外なほどに地元の人たちの関心も高かった。
なにしろ準備中の二人に通りがかりの近所の人がかわるがわる話しかけてきて、その日の作業は八割がお喋りで終わっていたなんて日もあったくらいだった。
だがそれは二人にとっては嬉しい誤算だった。事前に二人が一番懸念していたのが「地元の無関心」であり、このことはむしろ開業に向けての手ごたえとして二人には感じられたのだった。

オープン初日は彩夏と七海が出会ってちょうど2年目となる夏の日に決めていた。

急ピッチで準備を進め、二人ともが相次いで島に引っ越した。
カフェの準備を最優先で進めたため、住居となる部分はほとんどほったらかしで、カーテンもつけない有様だったのを見かねた家主の女性が、率先して住居部分の手入れを手伝ってくれていた。

人の悪意と善意をこれまでの人生で最もたくさん受け取った時間が、この2年間だった。