冬が来る前に


『もし発作を起こしたりしたら、永久コールドスリープを考えておいてください』
 病院に運ばれている際に、守倉先生に言われた言葉だけが頭の中を巡っていた。
 発作を起こしてしまったら、四季ごとに目を覚ますことはもう続けられないかもしれない。
 私はそれを承諾して、文化祭に臨んだのだ。
 別に、大丈夫と甘く考えていた訳ではないし、発作が起きたら起きたでそれでいいと思っていたわけでもない。
 ただ、禄と一緒に文化祭を過ごしたい。その思いだけだった。
 だって私がもうあと何回か寝ている間に、禄は卒業してしまうから。
 ああ、ダメだ。あんまりネガティブなことを考えていたら、病気の進行も早まる気がする。
 そうだ、楽しいことを考えよう。冬が来たら、禄と何をしようか。
 禄のために作ってるゲーム、完成できるかな。
 ガンクロさんとの配信、観れたら嬉しいな。
 それで、師走のチャンネル登録者数がたくさん増えていたら最高だ。
 ああ、そうだ、弟さんと向き合うって言ってたけど、少しは距離を縮められていたりするかな。
 聞きたいこと、話したいことが、山ほどあるよ。
 このまま眠り続けるなんて嫌だ。絶対に目を覚ましたい。
 高校生の禄に、まだ会いたいよ――。



「鶴咲青花さん、おはようございます」
 看護師さんの声が聞こえて、私はハッとした。
 慌てて窓の外の景色を見ると、秋には色づき始めていた木々が見事に裸になっている。
 ゆっくりと視線を横にずらすと、そこには守倉先生とおばあちゃんとお父さんがいた。
 禄はいないんだ、とすぐに思ったけれど、何か話し合いがありそうな空気を察して、禄が今いない理由も同時に理解した。
 家族だけで話さなきゃいけないことが、きっとあるんだろう。
 常に覚悟はしていたことだけど、いざとなると逃げ出したくなる。
「起きてすぐに申し訳ない。鶴咲さん、胸部のX線検査をしましょう」
「……はい」
 守倉先生の言葉に頷いて、私はまだぎこちない体を何とか起き上がらせる。
 おばあちゃんは不安げな瞳をしていて、お父さんは何か覚悟を決めたような顔をしていた。
 ずっと眠っていたから分からないけれど、きっと私が寝ている間に先生からある程度の説明は受けて、覚悟は決まっているんだろう。