一緒にいたい
『映画みたい、じゃないだろ。青花にとっては、全部〝リアル〟だよ』
禄の言葉が、涙腺に直結するみたいに、心に響いた。
ひとり家に帰ってもまだ、心臓がドクドク言ってる。
部屋着に着替えた私はベッドにうつぶせて、今日起こった出来事を頭の中で再生した。
「はあ……」
ぐるぐる目まぐるしい感情を吐き出すように、ため息を吐く。
桐生君みたいな、どうでもいい人間からの発言なんて、今まで何度もスルーできていたというのに。
私はああいうことが起きたとき、全部流して生きてきた。痛みを感じるよりも前に、なかったことにすれば大丈夫だって。
それなのに、感情を剥き出しにして、私の代わりに怒ってくれる人がいた。
ただそれだけのことが、どうしてこんなに胸を揺さぶるんだろう。
「ダメだって……」
ダメなのに。禄をこれ以上大切に思ったって、意味がないのに。
だって私たちは、これからどんどん年齢も離れていって、ほとんどの〝今〟を一緒に生きることができない。
私は、病を宣告されたときに決めたんだ。
もうこの世界に、これ以上大切なものは増やさないって。
だってどうせ失うなら、最初からない方が悲しくない。
それなのに、心はどうして言うことを聞いてくれないんだ。
『禄はやっぱり、神様だね』
あんな風に言ったのは、禄のことをこれ以上特別な存在にするのが怖かったから。
神様だねって、少し遠い位置の存在で彼を表現しなければ、この感情に答えが出てしまいそうだったから。
〇
十五歳までの私は、とくに大きな悩みもコンプレックスもない、平凡な女の子だったと思う。
お母さんは小さい頃からいなかったけど、おばあちゃんがすごく可愛がってくれたから、寂しいと思うことはなかった。
お父さんは多忙で気難しい人で何を相談しても上から目線で、どうやって接したらいいのか分からなかったけれど、生活に不自由を感じたことは一度もない。
きっと、自分は恵まれている方なんだろう。
漠然とそう思いながら、私は友達付き合いも問題なくこなしてきた。
教室に入れば仲のいい友達が当たり前に自分を迎え入れてくれて、学校に行きたくないと思ったことは一度もない。
でも、病を宣告されてから、私の心は空っぽになってしまった。
今でも忘れない、去年の春のこと。
『映画みたい、じゃないだろ。青花にとっては、全部〝リアル〟だよ』
禄の言葉が、涙腺に直結するみたいに、心に響いた。
ひとり家に帰ってもまだ、心臓がドクドク言ってる。
部屋着に着替えた私はベッドにうつぶせて、今日起こった出来事を頭の中で再生した。
「はあ……」
ぐるぐる目まぐるしい感情を吐き出すように、ため息を吐く。
桐生君みたいな、どうでもいい人間からの発言なんて、今まで何度もスルーできていたというのに。
私はああいうことが起きたとき、全部流して生きてきた。痛みを感じるよりも前に、なかったことにすれば大丈夫だって。
それなのに、感情を剥き出しにして、私の代わりに怒ってくれる人がいた。
ただそれだけのことが、どうしてこんなに胸を揺さぶるんだろう。
「ダメだって……」
ダメなのに。禄をこれ以上大切に思ったって、意味がないのに。
だって私たちは、これからどんどん年齢も離れていって、ほとんどの〝今〟を一緒に生きることができない。
私は、病を宣告されたときに決めたんだ。
もうこの世界に、これ以上大切なものは増やさないって。
だってどうせ失うなら、最初からない方が悲しくない。
それなのに、心はどうして言うことを聞いてくれないんだ。
『禄はやっぱり、神様だね』
あんな風に言ったのは、禄のことをこれ以上特別な存在にするのが怖かったから。
神様だねって、少し遠い位置の存在で彼を表現しなければ、この感情に答えが出てしまいそうだったから。
〇
十五歳までの私は、とくに大きな悩みもコンプレックスもない、平凡な女の子だったと思う。
お母さんは小さい頃からいなかったけど、おばあちゃんがすごく可愛がってくれたから、寂しいと思うことはなかった。
お父さんは多忙で気難しい人で何を相談しても上から目線で、どうやって接したらいいのか分からなかったけれど、生活に不自由を感じたことは一度もない。
きっと、自分は恵まれている方なんだろう。
漠然とそう思いながら、私は友達付き合いも問題なくこなしてきた。
教室に入れば仲のいい友達が当たり前に自分を迎え入れてくれて、学校に行きたくないと思ったことは一度もない。
でも、病を宣告されてから、私の心は空っぽになってしまった。
今でも忘れない、去年の春のこと。