とりあえず、回収した「魔剣オソロ」なるナイフを布にくるんでポーチにしまい、冒険者ギルドへ急ぐことにした。

 このナイフもポーション屋に持っていけば買い取ってもらえるかもしれないけれど、手元に残しておいたほうが吉だろう。

 魔剣というくらいなのだから秘めた力を持っていてもおかしくないし、このナイフがあれば危険な魔物の討伐だってできるかもしれない。

 何だかワクワクしてきた。仕事がもらえて金に余裕が出たら、ナイフを収納できる皮サックでも買おうっと。

 ポーション屋の店主に教えられたとおりに道を行くと、剣とコインのイラストが描かれた看板が見えた。あれが冒険者ギルドだろう。

 教会とまではいかないが、かなり立派な建物だ。

 周りにある建物と比べるとひときわ大きく、頑丈な造りをしている。

 建物の中に入ってまず目に飛び込んできたのは、壁に飾られた熊の剥製だった。狩猟で仕留めた鹿とかの頭部だけを剥製にして飾るアレだ。

 ただ、熊っぽい顔の形をしているが目がひとつしかない。多分、魔物だ。ここの冒険者ギルドの依頼で仕留めたのだろう。

 部屋の中央に円形のカウンターがあり、そこで冒険者っぽい人たちが受付の女性と話している。鎧を着た大男に、三角帽子をかぶった綺麗な女性。それに、狼みたいな顔をした毛むくじゃらの獣人。

 何だか熟練者みたいな見た目の人だらけだ。

 とりあえず、受付の女性に話を聞いてみることにした。自慢じゃないけど、俺には普通の人だとちょっと入りづらい店にも余裕で入れる図太さがあるのだ。

「いらっしゃいませ」

 俺の姿に気づいた受付嬢が、ペコリと頭を下げる。

「冒険者ギルド『ひとつ目熊の寝床』へようこそ。本日はどういったご用件でしょうか?」
「あの、ここで仕事を受けられると聞いて来たんですけど」
「依頼の受注ですね。冒険者協会の会員証をご提示いただけますか?」
「冒険者協会の……会員証?」

 何だそれ? フィットネスジムの会員証的なやつか?

「……あ、もしかして未登録の方?」
「え? あ、はい」
「ごめんなさいね。ウチはBランク以上の冒険者にしか仕事を斡旋してないの。ていうか、よく見たらまだ子供じゃない」

 突然、受付嬢の口調が砕ける。

 何だいきなり。失礼なやつだな。

 大の大人に向かって子供呼ばわりなんて──と思ったけど、今の俺は子供だった。この世界では17歳で成人だと言ってたけど、それくらいの年齢で冒険者になる人間はいないのだろうか。

「もしかして俺くらいの年齢だと、仕事は無理なんですか?」
「年齢は関係ないわよ。ランクがB以上なら喜んで仕事を斡旋するわ」
「ランク? 冒険者にランクがあるんですか?」
「そう。冒険者になるためには『冒険者協会』ってところに登録する必要があって、協会に登録したら一番下のEランクの会員証が発行されるの。そこから実務をこなすとランクアップの試験を受けられるようになって、試験に合格すればランクがひとつ上がるわ」
「なるほど……そのランクによって登録できる冒険者ギルドが決まっているってわけですね」
「そういうこと」

 それで、ここのギルドはB以上。

 ランクによって登録できるギルドが決まっているのは、依頼によって危険度が変わるからだろう。駆け出しの冒険者ばかりいるギルドに危険な依頼を出してもスルーされるだけだし、棲み分けすることで依頼する側も安心できる。

 なるほど、よくできたシステムだ。

 仮に俺がここで仕事を受けられたとしても、完遂できる仕事は何もないだろう。

「Eランクの冒険者の登録って、どこでできるんですか?」
「ん~、確か広場の外れにある『白猫の宿り木』ってギルドが受け付けていたはずだけど」

 白猫の宿り木。ここは「ひとつ目熊の寝床」だったし、変な名前のギルドばかりだな。この世界ではそういう名前が流行っているのだろうか。

 もしかすると、ギルドに白猫の剥製が飾ってあったりするのかもしれない。猫の剥製なんて、何だか可哀想になってくるけど。

「ありがとうございます。では、そこに行ってみます」

「はい。またのご利用をお待ちしておりますね。ご武運を」

 うやうやしく頭を下げる受付嬢。

 そうして、門前払いを食らった俺は、白猫の宿り木というギルドを目指すことにした。