となりを歩く奏をそっと見やる。
 奏は、モデルみたいにおしゃれだ。
 それに、太陽に照らされた笑顔に目を奪われる。
 昼間に奏と合うのは初めてで、いつもと違う雰囲気にそわそわしてしまう。
「大丈夫?体調悪い?」
 しかも、こんなに優しくされるから、もっとときめいてしまうよ。
「大丈夫!元気だよ。そんなことより、早く行こ
 奏にこの気持ちを見透かされたくなくて、先へ歩いて行った。

         *

「花束……売ってる……」
 奏が、CD屋さんの前で立ち止まる。
 視線をたどると、【天音のアルバム『花束』発売中!】と明るい文字で書いてある、少し色褪せたPOP。
 1年くらい前に発売されたアルバムみたいだ。
 収録曲は花の名前をしたものばかりで、だから花束なのか、と納得した。
 POPを細かく見てみると、なんと天音は現役高校生。しかも、わたしたちと同い年だ。
 まだ高2なのに歌を歌って、アルバムを出して。同い年でも、遥か遠く、雲の上にいる気がする。すごいなぁ。
 すると、同い年くらいの女子2人が近くにやってきて、アルバムを指さした。
「えぇ、まだ天音のアルバム売ってるの?」
「売れ残ってるだけでしょ!あんな下手な歌聴く人いないよ〜」
 あはは、と笑いながら彼女たちは通り過ぎていく。
 …………下手な歌。
 本人が聞いてたらどうするの?
 傷ついちゃうよ。
 そんなに天音に詳しいわけではないけど、全然下手じゃないのに。
 それどころか、そんなに歳も変わらないのに、すごく頑張ってるんだよ。
 あなたたちは、それより上手く歌えるの?
 歌えないでしょ?
 それなのに、一生懸命に音楽を届けてくれる人を見下すなんてありえない。
 下手だなんて、絶対言っちゃだめだ。
 奏は、ぎゅっとくちびるを噛み締めてる。
「……なんで音楽を純粋に楽しめないのかなぁ……
 音楽を聴いて、素敵だなぁとか、感動するなぁとか、そういうのを思うだけでいいのに。なのに、下手だなぁとか、変な曲だなぁなんて思う人がいるのが、つらい。
 奏は、となりで静かに頷く。
 その表情の中には、言葉では表しきれない何かが隠されている気がした。
 
         *

「あ、ピアノだ」
 奏は楽器屋さんのピアノコーナーを見て、ふわりと笑う。
「そういえば、奏ってピアノ弾けるんだっけ?」
 ピアノの鍵盤をなぞる姿を見て、思い出した。

『僕はギターじゃないんだ。僕の担当はキーボードと歌かなぁ』
 
 こう言っていたのはたしか、奏はギター弾かないの?って訊いたとき。
「うん。いちおうね」
 控えめに笑ってみせる奏だけど、たぶん上手だと思う。そうじゃなきゃ、ピアノを見て微笑むなんてありえない。
「じゃあ弾いてほしい!わたし奏のピアノ聴いてみたい!」
 そう言ってから、後悔した。
 今までちゃんと奏の音楽を聴いたことがないなと思って言ったけど、急に弾いてだなんて言われても困るよね。
 だけど奏は、困った顔は見せずに、
「いいよ」
と言ってくれた。
「だけど、響子と家で準備したいことあるから、そのときね」
 明るく微笑んだ奏の後ろには、輝く星が見えた気がした。