はあっと花畑にはそぐわない溜め息を吐くと、アオが「ごめん」と謝ってきた。

「ごめん、寧々」

 申し訳なさそうにするアオを見てしまえば、私もごめんと思った。

「ご、ごめん。せっかく連れてきてもらったのに苛々して……」

 はあっと今度は自分を落ち着かせるために吐いた溜め息。アオはすかさずポケットから出した手を、その溜め息と同じ位置に持ってきた。

「なにしてんの……?」

 手をググッと握り、開く。そんな行動を起こしたアオを不思議に思いそう聞くと、開けた手のひらをまじまじと見つめて彼は言う。

「掴めるかなあと思って」
「なにを」
「寧々の溜め息」

 はあ?と呆れた笑いが抜けていく。アオはまたもや同じ所作をした。

「あ、また出た」
「こ、これは溜め息じゃないよっ。笑っただけっ」
「あ、また出た」
「はあ?」
「あ、また」
「しゃ、喋ってるだけじゃん!」

 グーパーグーパー面前で何度もされて、なんだか面白くなってくる。

「あははっ。てか掴めるわけないし」
「いや、わかんないよ。息も空気もそこにあるんだから」
「そうだけど無理っ」
「やってみなきゃわかんないよ。三パーセントくらいは可能性があるかも」
「ひっく」

 グーパーグーパー、なかなかその三パーセントを諦めないアオ。しまいには両手でおにぎりでも握るような仕草をして、その格好のままようやく静止した。

「とうとう捕まえた」

 真面目な顔に思わず吹き出しそうになるが、アオが真剣なので、とりあえずは合わせておく。

「空気?」
「ううん」
「私の溜め息?」
「ううん」
「じゃあなに」

 ぽかんとする私の前、アオはその手をふたりの間の宙に置く。腰を屈め、彼が私と顔の位置を合わせれば、おにぎり型の手が邪魔をして互いの顔は見えなくなった。

「寧々っ」

 次にその顔が見えたのは、アオの両手がぱっと開かれた時。

「寧々を捕まえたっ」

 手の中から急にアオが現れたように私には見えたのだから、彼にとっても私はそう見えたのだろう。

「なに、それ……」

 ついさっきまで気まずくなっていたのに。

「どうやったらそんなの思いつくのっ」

 そんな淀んだ空気を、アオはいとも簡単に変えた。
 あははと腹を抱えて笑っていると、アオも安心したように微笑んだ。