瀬戸アオ。彼は私と同じ十七歳の高校生だと言った。ならばこの田舎町に共通の友人でもいるだろうと中学同級生の適当な名前を挙げて聞いてみるが、彼は誰も知らなかった。なんでも中学時代はほとんど学校へは通わなかったと。そんなに明るい話でもなさそうだったから詳しくは聞いていないけれど、私も彼の顔に見覚えもないから、彼はこの辺の中学ではなく、私立にでも進んだのだろうか。

 キスをしたその後。乗ってきなよ、とアオに促されて跨った自転車の後ろ。自分がこんなにも流されやすい性格だなんて知らなかった。自転車を発進させたアオが聞く。

「寧々の明日の予定は?」

 その言葉で捲った脳内カレンダーは、空白が続いていた。

「特にない」
「うわ、夏休み初っ端からないとか寂しっ」
「うるさいな、そういうアオはどうなのさっ」
「俺もなし」
「うわ、寂しっ」

 ははっと笑ったアオは、自転車のスピードを上げた。風の音に混ざって彼の声が届く。

「じゃあ明日デートしよーっ」

 私がアオの腰にぎゅっと掴まってしまったのは、彼が速度を落とさずに下り坂へ入ったから。

「ちょっ、アオ速いっ」

 デートの返事よりも先にそう言うと、キキーッと目一杯ブレーキが鳴って止まる自転車。

「わっ」

 思わずつんのめり、アオの背中に顔を打ち付けた。いててと鼻を摩りながらアオを見上げると、横顔の彼と目が合った。

「寧々ごめん」
「極端すぎだよ……」
「あははっ。ごめんって」

 もうっとアオの背中を軽く叩き、前を向かせる。今度は軽やかに、風が頬を撫でていく。

「寧々、明日会える?」

 イエスかノーでしか答えられないその質問。アオと私の薄っぺらい関係性だと、ノーと答えるのが普通だろう。

「い、いいけどべつに」

 なのにこんな返答をしてしまった私は、彼に何を求めているのだろう。

「明後日は?」
「明後日も暇だよ」
「やったっ。じゃあ明日も明後日も会えるなっ」

 出逢った瞬間から破天荒でしかないアオ。彼が作るその渦に巻かれて、自分の何かを変えたかったのかもしれない。