水野(みずの)寧々(ねね)のいくじなし〜!」

 夏休み初日。ザザンと波打つ夕方の浜辺。そんな大声を出して野鳥を驚かせたのは私、水野寧々。沖へと羽ばたく鳥の後ろ姿を目に入れながら、今一度大きく息を吸う。

「そんでもって人間多すぎ〜!みんな消えちゃえ〜!」

 遠くに一隻の旅客船が見えた。あの船が丸ごと消え失せでもしてくれたら、三千人くらいは人口が減るのだろうか。
 はあっと息が切れ、背中から砂浜へ倒れ込む。太陽の姿なき空ではそろそろ星たちが主役の番になりそうだ。海沿いの田舎町の夜は早い。

「流れ星でも落ちてこないかなあ……」

 ぽつり、ひとりで呟いて、ぽたり、涙が出る予感。潤んだ瞳からそれが零れないよう必死に堪えるけれど、頬には無許可に冷たいものが伝っていく。

「最悪っ」

 泣く代わりにと恥を忍んで叫んだのに、声に出したら出したで痛感させられてしまうのは自分の強烈な不甲斐なさ。
 言いたかった伝えたかった。たとえ実らない恋だとしても、気持ちだけは知らせたかった。

「人口のせいにすんな、ばーかっ」

 世界がたったのふたりだけならば彼に私を発見してもらえたかもしれない。そんな風に思い出した私は本当救いようのない愚か者だ。