──翌日。
広い寝台の上で1人目を覚ましたフレイヤは、滲んだ涙が固まった目尻を軽くこすりつつ、天井を見上げる。
結婚当日から早速の冷戦状態に陥ってしまい、こんな状態でこれから先やっていけるのだろうかと思うと、重く深い溜息が漏れた。
(侍女たちも、絶対絶対気づいてるわよね)
寝所や浴室などは一番人が無防備になるところのため、すぐに駆けつけられる距離に護衛がいるものだ。
それに、侍女や使用人たちのうちの数人は、夜間も主の求めに応じて動けるように控えている。特に昨日は新婚夫婦の初夜だったのだから、いつも以上に手厚く控えがいたはずだ。
つまり、フレイヤとローガンの間に何もなかったことに、屋敷の者たちが気づかないわけがない。
「はぁ……」
再び重い溜息を吐いたところで、控えめなノックとともに侍女が入ってくる。
「奥様、もうお目覚めだったのですね」
「……ええ」
恰幅のよい彼女は、アデルブライト家の侍女の中でも古株で、名前はマーサといった。
花嫁にしてはちょっと辛気臭い顔をしていただろうフレイヤを甲斐甲斐しく世話し、励ましてくれたことを思うと、なんだか申し訳なくなってくる。
しかし……。
「体調はもう大丈夫でしょうか?」
「体調……大丈夫、だけど」
「それはようございました。昨日はお疲れが出てしまったのでしょうね。私としたことが気づけず申し訳ありません。ローガン様がついにご結婚されたことに浮かれてしまっておりましたわ……」
「……?」
どうにも話が噛み合わない。
彼女の言葉からして……もしかすると、ローガンは昨夜寝室を出たあと、フレイヤの体調が芳しくないため休ませることにした、など侍女たちに伝えたのかもしれない。
フレイヤとしても「初夜に義務すら放棄された新妻」という不名誉を避けられて、何も言い訳がないよりはありがたく思えた。
「お食事は摂れそうですか?」
「ええ」