澄み切った青空の下、教会への道のりを、1台の馬車が進む。

 薄青と薄紫の花が飾り付けられた馬車の客室では、純白のドレスを身にまとった年若き令嬢が、純白の騎士服を身にまとった青年に寄り添い、幸せな微笑みを浮かべていた。

 しばらくして馬車は止まり、教会の鐘が軽やかに鳴り響くなか、ゆっくりと扉が開かれる。

「フレイヤ、手を」
「はい、ローガン様」

 一足先に降りたローガンが差し出した手を取り、フレイヤは一歩を踏み出した。
 婚姻見届人の主教が待つ教会の中へと、ゆっくり、2人は歩調を合わせて進んでゆく。


 ──今日は、新たな出発の日。

 余計な気を遣わず、水入らずで過ごしたいと願い、教会には夫婦と主教しかいない。
 宣誓の儀のやり直しという無茶を、深く理由を尋ねることなく了承してくれたという主教は、柔和な笑みで2人を迎えた。

「今のあなたがたに、形式通りの誓いでは不足があるでしょう。私はおふたりの誓いをしかと聞き届け、見届けます。どうぞ、思うように宣誓を」

 宣誓の儀の定型文とはまったく違う言葉を言われて、フレイヤはローガンと顔を見合わせる。
 やがてローガンは、フレイヤの両手をそっと取り、包むように優しく握った。

「俺、ローガン・アデルブライトは……フレイヤ、君をこれから先もずっと愛し、慈しみ、守り抜くと誓おう。そして、君から一番に頼りにされ、同じ想いを返してもらえるように、努力を怠らない。だからどうか、この先の人生を、俺とともに過ごしてほしい。君を幸せにするのは、いつだって俺でありたい……この我儘を受け入れてくれるだろうか」
「はい……!」

 何度も深く頷いたフレイヤは、ローガンの手を握り返した。

「私、フレイヤ・アデルブライトは……ローガン様、あなたのことがずっとずっと大好きで、これから先もずーっと愛する自信があります。いつだってあなたの無事を願い、あなたが帰る場所となることを誓いましょう。あなたがそばにいて私を慈しんでくださるなら、私はそれだけで幸せです。どうか末永く、私とともに歩んでください」
「ああ……もちろんだ」
「宣誓は、今ここに成されました!」

 主教が高らかに宣言すると、2人を祝福するように鐘の音が鳴る。

 改めて夫婦としての誓いを立てたフレイヤとローガンは、教会を出て、青空の下へと歩んでゆく。

「フレイヤ」
「はい、……ん!」

 返事をした途端、ローガンは優しいキスをする。

 その表情は、穏やかで優しく──口元には、幸せを隠しきれない微笑みが浮かんでいた。



《完結》