ここにきてもたらされた新しい情報に、フレイヤは寄りかかっていた身体を瞬時に起こしてしまう。

「それは、一体どういう……」
「機密事項に関わるので俺から詳しくは話せないが、いずれ殿下から話があるだろう」
「そ、そうですか……。では、お姉様とは何もなく……?」
「当然だ。ソフィアの方も、俺のことはただの幼馴染みだと思っているだろう。殿下と相性もいい様子で、王城でも親しくされている」
「よかった……」

 姉が意に沿わぬ結婚と王太子妃の重責、望まぬ2つを同時に背負うことになったのだとしたら、自分だけ浮かれることなんてできないと思っていた。

 だが、そうではなかったとわかり、一気に気が楽になってくる。

「フレイヤの方こそ……昔からずっとと言っていたが、その、いつから俺のことを……?」
「自覚したのは……ローガン様と同じ頃でしょうか。木から落ちたところを助けていただいた時から特別でしたが、再会したあの時、はっきりと自分の思いに気づきました」

 当時のことを振り返りながら言うと、ローガンは怪訝そうな顔になる。

「では、結婚が決まったあと会いに行った時、ほとんど目も合わせずにいたのは──」

 言いかけて、ハッとした様子で言葉が止まった。

「そうか、あれは俺のせいだな。あの時も、険しい顔になっていたのか」
「ええ……なので、ローガン様の意に沿わぬ結婚なのかと思って……。それで、最初の夜に、愛さなくてもいいからせめて……と願ってしまったのです」
「……あれは、そういう意味だったのか……」

 深々と溜息をついたローガンは、額を押さえた。

「俺は……フレイヤはむさ苦しい男になった俺との結婚など嫌で、だが貴族の義務として受け入れるということかと思って……」

 ローガンは体格がよくがっしりしているけれど、色彩もあって見た目はどちらかと言うと涼やかで、むさ苦しくはない。
 しかし寄宿学校卒業直後にフレイヤから避けられたことも影響してか、自己評価が低くなってしまっているようだ。

「だから俺は、せめてフレイヤが俺に対して多少の情を持てるようになるまで、手を出さずに我慢するつもりでいたんだ」
(じゃあ、庭園で言われたあの言葉は……)

 結婚翌日。庭を散歩しないかと誘われた先で、ローガンは真剣な表情をしてこう言った。

『この結婚が本意でないにしても……俺は、君を傷つける気はない。無理強いはしないと、騎士の剣と我が名にかけて誓う』

 あの言葉の頭には、“君にとって”が入っていたというわけだ。

 彼の真剣な覚悟を誤解して落ち込んでいた自分が、今となっては少し可笑しい。