「あの……ローガン様は、今も昔も私のことを想ってくださっていると言われていましたけれど、一体いつからなのでしょうか……?」
「……寄宿学校から戻ってきたばかりの頃、だろうか」
「えっ!」
「それまでは……その、お転婆で可愛らしいちびっ子くらいに思っていたんだが、あの時、フレイヤが自分とあまり年の変わらない女の子なんだと感じた瞬間に、どうにも落ち着かない気持ちになってしまった」

 フレイヤが恋心を自覚したのも、まさに同じようなタイミングだった。
 あの時の彼がまさかそんなことを思っていたとは予想外で、フレイヤは驚きに目をまたたく。

「だが、フレイヤは俺を見て、表情を強張らせて逃げていっただろう?」
「あ……」
「俺は寄宿学校にいる間にぐんぐん背が伸びて、体つきもがっしりしたし、顔の雰囲気も変わって、声も低くなった。フレイヤが懐いてくれていた頃とは、まるで別人だ」

 確かに、寄宿学校入学前と卒業後のローガンでは、身長も体格も声も、雰囲気すらも大きく変わっていた。

「入学当時は、恐れ多くもどこぞの王子みたいだと茶化して言われることもあったが、卒業した時にはすっかり騎士らしくなり、腕力と家系のこともあって同窓の一部や下級生には恐れられているようだったから……。フレイヤもきっと恐ろしく感じたのだろうと思うと、なかなか声をかけられなかった」

 フレイヤが、過去の自分への羞恥心から「お勤めご苦労さまです」という謎の挨拶をして逃げ去っていった時、ローガンがそんなことを考えていたとは。

「すれ違いの起点はそこまで遡るのね……」と内心頭を抱え、フレイヤは訂正に入る。

「ローガン様は確かにお変わりになられましたが、すごく格好良くて……私、小さい頃は本当にお転婆どころではなく、男の子みたいでしたから……一応女の子らしくなって、何をどうやってお話すればいいのかわからなくなってしまったのです」
「……格好良い?」
「ええ。それに私、小さい頃、お義父様の騎士団長服姿に憧れて剣を振り回していたのですよ? ローガン様が騎士らしい見た目になられても、怖がるはずなんてないではありませんか」
「そうか……それもそうだな」

 目から鱗といった様子のローガンを見てくすくす笑い、フレイヤは彼の肩の辺りにそっと寄りかかる。

「ローガン様とどんな顔をしてお会いすればいいのかわからず避けている内に、お姉様と仲睦まじくされているところを見てしまって……その後、婚約もされましたし。叶わぬ恋だと、諦めたのです」
「……あの婚約は、最初から解消が前提のものだった」
「ええっ!?」