「あの、ローガン様……?」

 彼の苦しそうな表情が気になって、フレイヤの声は心配の色を帯びる。
 しばらく沈黙していたローガンは、やがてゆっくりと問いを発した。

「……そんなに、俺が憎いか」
「えっ……?」
「逃げられるよりは、刺したいほどに憎い男もろとも手中に収めた方がまだマシだと思って、俺は最大限の譲歩をしたのに……君は愛人などいらないと言いつつ、花か蝶のように男どもを引き寄せては舞っている。……不愉快だ」
「あの……、えっ……!?」

 ローガンが何を言っているのかわからない。
 言葉は聞き取れたが、意味が理解できずにフレイヤはおろおろと視線を泳がせる。

 そうこうしているうちに軽く肩を押され、フレイヤの身体は後ろにあった寝台へとあっけなく倒れた。

 それに続いて、ローガンも寝台の上へあがってくる。
 これではまるで──というか、どう考えても押し倒されているような状態だ。

「ローガン様、あの、これは……」
「何も聞きたくない」

 薄青の瞳は微かに揺れながらも、フレイヤを捉えて離さない。

 こんな時だというのにその美しい双眸に一瞬見とれ──次の瞬間、唇が塞がれていた。

「んんっ……!?」

 彼の外見から受ける冴え冴えとした冷たい印象とは裏腹に、触れる唇は温かい。

 そして、口づけはどこまでも優しく、慈しむようなものだった。
 先ほどまでの強引な動作と、今まさにされているキスとのあまりの違い、ローガンの謎の言葉に混乱し、フレイヤはただ
 固まったままになる。

 その間に、一度離れた彼の唇は再び軽く触れるだけのキスを落とし、それから首筋、鎖骨へと点々と触れながら下っていった。

 今日も今日とてペラペラで頼りない寝間着。
 そのボタンが外される気配があり、フレイヤはぎょっとして飛び起きかける。

 が、動きを察知したローガンに肩を抑えられてそれは叶わず、はだけた胸元に唇が触れた。
 強く肌を吸われる感覚があり、胸元の薄い皮膚が鈍く痛む。

「ローガンさ、……っ!」
「……やめてくれ、止まらなくなる」
「……!?」

 もはや言葉も出てこなくなり、酸欠の魚のように口をぱくぱくさせるフレイヤ。
 もう一度、胸の合間の際どいところに痕をつけたローガンは、視線を逸らすと「すまない」と小さく呟いた。

 外したボタンをきっちり留め直した彼は、ぐしゃりと乱雑に髪をかき乱す。

「夜会には俺も行く。逃げられると思うなよ」

 まるで宣戦布告のような言葉を残し、ローガンは浴室の方へと消えていったのだった。