帰宅後、早速フレイヤは家令のもとを訪ねた。
「ねぇ、どこかから招待状は届いてないかしら。できれば、大きい夜会がいいのだけれど」
「……は、はぁ……」
結婚から1ヶ月少々。
夜会にも茶会にも興味を示さず、招待状の有無なんて微塵も気にしていなかったフレイヤの突然の心変わりに、家令は珍しく驚いた様子だった。
しかしすぐに気を取り直して、手紙の束の中からいくつかを取り出す。
「大きな夜会ですと、このあたりでしょうか。しかし、旦那様はすべて辞退するようにと仰せでして……」
「ローガン様はお忙しいから行けなくても、私が少し顔を出すくらいしてもいいでしょう? 私も社交界で交友を広めないとと思っているの。大丈夫よ、ドレスも宝飾品も手持ちのもので十分だし、散財なんてしないわ」
「そういった心配はしておりませんが……」
結婚してから、フレイヤは大きな買い物などは一切していない。
それも当然家令は把握しているので、フレイヤの言葉に頷いた。
歯切れが悪いのは、夫人が1人で夜会に参加するのはやや珍しいからだろうか。
だが、パートナー必須の会でなければ思い切り浮くということもないので問題はないだろう。
「あら、これは良さそうね」
フレイヤが目を留めたのは、コネリー侯爵家が主催する夜会の招待状だった。
コネリー侯爵は、前侯爵が隠居して最近爵位を継いだばかり。
前侯爵が40歳近くになってできた待望の嫡男だったそうで、年齢はまだ20歳だったはずだ。
年若き侯爵、おまけに未婚で婚約者もおらず、見目麗しい貴公子だそうだから、今最も社交界で注目を浴びている人物の1人。
夜会で見初められようと考えたご令嬢たちが多く集まることだろう。
(未婚の令嬢が集まるなら、父兄もエスコート役で多く参加するはずよ。それに、侯爵と繋がりを強化したい有力者も加わるでしょうから……情報収集にはこれ以上ないほどの最高の舞台だわ)
さらに好都合だったのは、招待状が返事を必要としないものだったことだ。
席につき、ホストが丁寧にもてなす小規模な会の場合には、事前に参加人数やそれぞれの好みを把握してもてなしに反映するため、どんなに遅くとも1週間前までには返答をする必要があり、飛び入り参加はできない。
だが、大規模な夜会の場合は立食形式が多く、招待状を持っていればそれぞれの都合のいい時間に参加して帰るというラフなものもあるのだ。
(開催は6日後……別に、大して準備することもないから、問題ないわね)
若き侯爵を射止めんとするご令嬢たちなら、新しいドレスを仕立てたり、肌の調子を整えたりと色々入念な準備をする必要があるだろうが、フレイヤの目的は情報だ。
ローガンの(一応はまだ)妻として恥ずかしくない程度の装いができればそれでいい。
「コネリー侯爵家主催の夜会に参加するわ」
「……かしこまりました」
何か有力な情報を掴めたら、全てを解決する糸口になるかもしれない。
落ち着かない気持ちと期待を胸に、フレイヤは招待状を持って部屋へと戻った。