ガラスのお皿に乗せられたマカロンを一つつまむと、一口にほおばる穂花。せっかく穂花のお母さんが街から取り寄せてくれたものだっていうのに……がさつだなあ。

 窓の外からは潮風に乗って蝉の生命力の雄叫びが聞こえてくる。
 一週間のわずかな――まさに瞬く間と言える余命。その時間を、子どもを成すために鳴き続けて過ごす。
 あたかも次の世代を生み出すために地中から這い出てくるような人生だ。
 そんな蝉の声をたやすく「うるさい」と言い切る都会の人たちが、私は怖い。

 だって、私たち一族だって――。

「ちかげは、臆病だよね」

 真顔でマカロンを咀嚼しながら、穂花は私の目を見据える。
 ちょっとぼんやりしていたのを見抜かれただろうか。

「そうかな」
「そうだよ。恋することになんか罪悪感持ってるみたい」

 さすがは、幼なじみ……自分の秘密が知られてしまったのではないかと、一瞬体が強ばる。

「命短し、恋せよ乙女って言葉は、あんたみたいな女子のためにあるんだろうね」

 命短し、恋せよ乙女――か。
 聞いたことのあるフレーズだけれど、まるっきり私の逆をいく言葉だ。

 恋をすれば、地上での命はない。

「私なりのこの言葉の解釈があるんだけどね」

 穂花の言葉には続きがあった。
 珍しく真面目な声色に、自ずと背筋が伸びる。
 首を振る扇風機の風が、背中とTシャツの間にできた隙間にするすると心地よい風を送り込むのを感じた。

「恋って言うのは何も男女の間の恋愛に限ったことじゃないって解釈」
「……ホモ?」
「じゃなくって。『恋』っていうのは、生きている中で見つける生まれてきた喜び全般のことを指すなんじゃない? 情熱を持って取り組めるもの……例えば部活とか、仕事とか、趣味でもなんでも」
「生きる意味ってやつ?」
「それそれ。ちょっとおおげさかもだけど」

 そこで穂花はひと息置いた。
 まるでずっと昔から置かれていた宝箱を開けるように、穂花は次の言葉を紡ぎ始める。

「私たちの人生ってせいぜい100年くらいじゃない。そんな限られた人生なんだから、やりたいことが打ち込みたいこと、好きな人や好きなものがあるのに、全力でぶつからなきゃ生きてる意味がない! ってことなんじゃないかな」

 同い年の口から出たとは思えない、真実を言い当てた言葉に、私は射すくめられた。
 生きている意味が、ない――。

 何も言い返せないでいる私に、幼なじみの少女は畳みかける。

「たった100年しかもともとない命なんだからさ、臆病じゃだめだよ、ちかげ。たとえ全力でぶつかって、結果的に命が短くなったとしても、生きる喜びを噛みしめた人生は『短く太い』人生って思えるんじゃないかな? 何もしない人生よりもはるかに輝いた人生になるんじゃない?」